年齢相応の勘違い
1階の受付カウンターまで戻ってきた俺は、例の件について訊ねていた。
美しい笑顔でありながらも、どこか好意的な眼差しを向ける彼女に思わず視線を逸らしそうになるが、俺は話を続ける。
「……というわけなんです。
それでこの子が着られそうな服を探しているんですが、クラリッサさんはそういった服屋に心当たりはありませんか?」
「なるほど。
この町に子供服を専門に扱っているお店はありませんが、フラヴィさんに合いそうなサイズの服を売っている販売店を1軒だけですが存じています。
……少々個性的な店主ですが、とても大きなお店なのでトーヤさんのお求めの服も見つかるかと」
「そうですか、ありがとうございます」
気になる言葉を聞いたが、1軒しかないなら仕方がない。
そこでだめなら服を作ってみるくらいしかないだろう。
絶望的な針捌きで生地をどれだけ無駄にするか、考えるのも恐ろしいが……。
「ギルドを出て2時の方向にある路地に入り、5分ほど歩くと左手にあります。
大人向けの女性服専門店ではありますが、小さなサイズも売っています。
生活雑貨もありますので、男性でも気兼ねなく入ることのできるお店ですよ」
「女性服専門店か。
折角だし、そこでエルルの服も買うか」
「いいの?」
嬉しさと申し訳なさが半々か。
だがそんなこと気にしなくていい。
むしろ、しっかりと買わないとダメだ。
「その格好じゃ色々と問題だ。
雨着や防寒着は必要だし、靴もサンダルじゃ危ない。
防具も考えなきゃいけないが、そっちは俺にあてがある」
まずは生活用品と着替えを含む洋服、それに靴だな。
粗末なサンダルを履いてるフラヴィにも買わなきゃ危ないし、ブラシやら手鏡やら色々と必要になるものは多い。
コスメは……まだいらない年齢か。
まぁ、資金にも余裕があるし、欲しがっても問題ないな。
「ありがとうございます、クラリッサさん」
「いいえ、お役に立てて幸いです。
……トーヤ様は、明日にはこの町を発たれてしまうのですか?」
「乗合馬車次第ですが、そうなると思います」
「そうですか」
どこか悲しげな声が静かに耳へ届く。
いや、まさかな。
そんなことありえないだろ。
「それでは再びこの町へお出での際は、当ギルドをご利用下さい」
そう言葉にしながら深々とお辞儀をする彼女の声は透き通るほどはっきりと聞こえるもので、先ほどのはどうやら気のせいだったと思わず苦笑いが出てしまった。
彼女のような大人の女性が俺みたいなガキに好意を持つだなんて、少々自惚れていたらしい。
いや、これが年齢相応の勘違いなのかもしれないな。
真横でにまにまと俺の顔を見るエトヴィンさんが気になるところではあるが、俺達はギルドを後にした。