野性味あふれる
さて、報告すべきことも、大体このくらいか。
すべてを解決できなかったのは残念だが、興味深い話も聞けた。
あとは彼の言う通り"俺次第"で状況が変っていくだろうな。
厄介なことこの上ないが、確実に来るだろう面倒事にも対処ができるよう、ある程度は気を張って行動した方がいいか。
「それで、トーヤはこれからどうするんだ?」
「まずはバルヒェット行きの乗り合い馬車を手配しようと思う」
「この時間だと明日の馬車になりそうだの」
「そういえば、この子を連れて泊まれる宿はデルプフェルトにあるんですか?」
視線をブランシェへ向けると、床で横になって熟睡していた。
さすがに腹を出しながら寝てはいなかったが、話が難しすぎたのか興味がなかったのか、それともその両方か。
時間が少しかかったことも原因なんだろうな。
人に臆することなく眠れる度胸は、出逢った頃のままとも言えるんだが。
「……そういえば、その子は魔物の子じゃったのぅ……。
随分と穏やかな気性のわんこだと思ってたわい……」
「まさかフェンリルの子だとは、さすがに思えないよなぁ……」
視線が集まるもブランシェは静かに寝息を立てる。
この子は大胆な行動を取る一方で、どこか臆病にも思える不思議な子だ。
勇猛果敢と思えたブランディーヌとは随分違う印象を持つが、それも数年すれば変っていくのかもしれない。
いずれは立派な母親のような毛並みと、鋭い眼光を持つようになるんだろうな。
「まぁ、その子がトーヤ殿にこれほど懐いているなら問題なかろうて。
……そうじゃのう、魔物連れでも泊まれる"夜風の箱庭"あたりじゃろうかの?」
「この子なら犬の魔物と認識されるだろうから部屋にも入れられると思うぞ。
この町じゃ魔物連れをあまり見かけないし、専門の宿自体少ないんだよなぁ」
「場所は乗合馬車の乗り場から、東に真っ直ぐ進んで右側じゃの。
大きな三日月の印しか載ってない看板じゃから一般的な宿として運営しとるが、魔物連れも快く受け入れてくれるから安心じゃよ。
ちなみに魔物の入店を許可している店の看板には狼の絵が書かれとるよ。
それを目印に入るとよかろうて」
「ありがとうございます。
馬車の予約をしたら行ってみます」
これで寝床も確保できそうだ。
いざとなれば野営でもいいかと思っていたが、久しぶりにベッドで眠れるな。
……そうだ。
肝心なことを忘れていた。
「……こんなことを聞いていいのか分からないんですが、フラヴィの服を調達できそうな子供服を扱っている店はわかりませんか?」
「ホッホ、そうじゃったのぅ」
「あまりのことに忘れていたが、人の姿になれるんだったな……」
「俺もこんなこと想定してなかったから、この子が着る服を持ってないんだ」
「まぁ、誰もが予想だにしないことじゃよ。
……しかし子供服ともなれば、さてどうしたもんかのう」
「大抵は親が適当に作っちまうからなぁ。
生地や糸を売ってる裁縫専門店ならあるが、トーヤは自分で作れそうか?」
「料理ならともかく、服を自作するのは難しいと思うよ。
急遽用意したローブも裾を強引に切って、サイズを合わせたものだし……」
野性味あふれる箇所を見せながら答えると同時に、苦笑いする俺達3人だった。
「これは男だけで話すよりも、女性の意見を聞いた方がいいかもしれんの。
くーちゃんならどこかいい店を知っとらんかのぅ」
確かにあの人なら色々と詳しそうに思える。
イメージで判断するのは失礼だが、どこか家庭的な女性にも見えた。
思えば俺は料理に関してなら楽しく思えるが、こと被服製作に関しては子供の頃から絶望的だったな。
エプロン作りでさえも、完成までどれだけかかったか分からないくらいだ。
その程度の技術しか持たない俺が、フラヴィの服を上手に作れるとは思えない。
作るまでローブ1枚だけでいさせるわけにもいかないし、どうせなら可愛い服をこの子に着せてあげたい。
……本人が喜ぶのかは、正直なところ何とも言えないんだが……。