冒険者の特権
だがひとつ気になることも出てきた。
ぽつりと呟くように、俺は言葉にする。
「……もしかして、これも目的のひとつなのか……」
「その可能性はあるのぅ」
「十数億ベルツとはいえ、大貴族の当主が欲するとも思えない。
それこそボンクラ説が有力になってくるんじゃないか?」
確かにその通りだ。
十数億という金額は貴族にとっても莫大な金額だろうと、ここは他国だ。
領地を持つ貴族、さらにその上の国を動かす大貴族であれば、日常でぽんぽんと大金を使っている可能性だってあるんだから資金はいくらあっても足りないはず。
そういった暮らしを想像できない俺にとってはあまり実感がわかないが、それだけの資金が手に入れば様々な用途に使えるだろう。
それに本国へ持ち運ぶのにも関税がかかるはずだ。
財宝を馬車に詰め込めるだけ詰めて移動するのは不可能に近い。
誰にも気づかれず誰にも悟らせずに十数億を持ち帰るのは、それこそ不可能だ。
やはりその辺りすらも理解していないようなボンクラか。
だが、もし推察が当たっているのなら、確実に出遭う。
それこそ地図と指輪を必ず取り返そうとするだろう。
「バルヒェット周辺で遭遇するか、いなければ迷宮都市、ですかね。
裏社会で手に入れた地図の可能性もありますし、それを捌こうとしていたのかもしれません」
「そうかもしれんの。
じゃが、これだけ情報が揃っているなら探さん手はないのう。
ワシ、年甲斐もなくワクワクしてきたわい!」
「……ローベルトさんはギルマスだから、町を離れられないだろ?
そんなに瞳を輝かせて探しに行ったら、さすがにクラリッサが怒ると思うが」
「それを言っちゃあ、しょぼくれるしかないのぅ。
……まったく、夢くらい見させてくれてもいいではないか」
「そりゃ悪かったな。
こちとら現実を歩いてる憲兵だからな。
そういった夢を見続けても、冒険者と違って実行に移せないんだよ」
「ホッホ。
それも冒険者の特権じゃよ。
あとはトーヤ殿に任せるとしよう。
探すも探さぬも冒険者は自由じゃからの」
「……考えておきます。
今は正直、貴族の方を何とかしたい気持ちが強いですし」
最悪、道中で襲撃される可能性だってゼロじゃないだろうし、この子達を抱えている以上、本音を言えば気が気じゃない。
確実に安全な道を選びたいが、そんな選択すら与えられないかもしれないんだ。
夢を見るよりも、まずは現実に直面している事態を収拾したい。
……まさかとは思うが、乗合馬車を狙ったりはしないだろうな……。
いや、それは考えすぎか。
そんな目立つ行動を隠しきれるとは思えない。
冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルド、ひいてはこの国をも敵に回す行為だ。
そこまで馬鹿なやつはボンクラでもいないと思いたいが……。
まぁ、それはいい。
問題はもうひとつあるな。
そんな莫大な財宝が見つかってしまった場合だ。
「もし財宝が本当に見つかったら、ローベルトさんにお渡ししますよ」
「そりゃちょっと多すぎないか?
こういった場合の分け前は半々だと思うぞ」
「そもそも俺は偽物だと思ってたし、謎を解いたのもすべてローベルトさんだ。
それに俺には十数億ベルツなんて大金が見つかっても手にあまるだろうし。
金はあって困るようなものじゃないとは思うけど、多すぎるのは問題だ」
「ホッホ。
トーヤ殿の気持ちはありがたいが、辞退させてもらうよ。
ギルドマスターとしての立場もあるから、さすがにもらえんわい。
それにこういった場合は国に没収されるのが落ちじゃよ。
なら、ちょっと良さげなソファーでもトーヤ殿に買ってもらおうかの」
「……十数億ベルツが見つかるかもしれないってのに、そんなんでいいのかよ。
豪邸だって建てられるし、美味いもんだって食い放題だぞ?」
「わかっとらんのぅ、エトヴィンは。
こういうものは冒険者のロマンなんじゃよ。
見つかったことが嬉しいのであって、その資金をどうこうってのはまた別の話なんじゃ」
「そんなもんなのかね」
「そんなもんじゃよ」
呆れたようにエトヴィンは笑い、とても楽しそうにローベルトは笑ってた。
そんなふたりを見てると俺も自然と笑みがこぼれる。
とても不思議な気持ちにさせられるふたりだった。




