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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第七章 後悔をしないように
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こういった楽しみを

 ルートヴィヒ・ユーベルヴェーク。

 200年近く前、この国の豪商から金品を強奪しまくったと言われる大盗賊だ。

 15年以上窃盗を繰り返し、その被害総額は推定十数億ベルツにもなるという。

 現在でも彼の残した財宝を捜し歩く者は絶えないが、発見には至っていない。


「このマークは本人が書き記したと思われる文献にしか残されておらん。

 それも極々限られたもので、すべて古代語を使って暗号化されておるからの。

 そういった知識もなければまったく解読できんようになっとるのじゃよ。

 更には正しい3枚の文献を統合しなければ違った意味になるよう細工されとる。

 本人が残した文献は10枚発見されたが、そのうち7枚は偽物なんじゃ。

 角を乗せた動物をモチーフにしている地図は、ワシの知る限り14頭目じゃの。

 当然、これ以外の絵柄が描かれたものはすべて偽物じゃし、違う場所を記した地図だけでも最低30種類以上は発見されとるよ。

 正解と思われる獅子の地図はもう現存しないと思っていたが、まさかこの目で拝める日がこようとは、これも何かの導きなのかのぅ……」

「よくご存知ですね、ローベルトさん」

「ホッホ。

 昔取った杵柄(きねづか)じゃな。

 そもそもルートヴィヒ自体が忌避される存在として扱われておる。

 快く思わない被害者が、彼の残した資料を躍起になって探したとも言われる。

 少ない文献を手にしたとしても、古代語を読み解くには首都にある大図書館の深部に入り浸らなければならんほど、解読は困難を極めるからの。

 並の冒険者では偽物の地図に踊らされるのが落ちじゃろうて」


 ここまで聞けば確かに本物の地図のようにも思えてくるが、そういった類のものはそう簡単に見つからないのが世の常だ。

 とはいえ、これだけ情報が揃っていれば十分だと彼は話した。


「巧妙、狡猾、迅速確実な手腕に加え古代語にも精通し、その上博識ときとる。

 おまけに他者を一切傷つけることなく、時には大胆不敵に目的を達成する姿は当時の人々を魅了したとも聞く。

 これほどの大盗賊はこの国の歴史上、他におるまいて」


 なるほど、稀代の大泥棒ってことか。

 改めて地図を見直すと、本物に思えてくるのが不思議だ。


「場所はどこを記しているんだ?

 こんな切れ端の地図でもわかるのか?

 大体、ここに書かれてるデカい湖みたいなもんはフェルザーじゃないのか?

 いくら印があっても、あんなだだっ広い場所を探すのは不可能だぞ……」

「そうじゃのう……。

 ……いや、そう思わせるように描かれとるな。

 …………リュデルウェダ、ファトブムルク、ゴルポーブド……。

 ……巨大な湖……東の……泉?」

「……フェルザーの湖東部に泉なんかあったか?」

「ふむ……」


 立ち上がったローベルトは本棚にある一冊を手に取り、挟んであった大きな数枚の紙をテーブルに広げた。


「これらはこの周辺の古地図をまとめたものじゃ。

 そしてこっちが正確に描かれた現在の地図じゃよ。

 ほれ、180年前にはあった泉が現在では枯れておる。

 ……いや、150年前の古地図にはもう表記されておらんの。

 これじゃあ誰もお宝を見つけられんわけだのぅ。

 まぁ、これもすべてルートヴィヒの狙いじゃろうて」


 彼の話にエトヴィンはかなり呆れた様子で言葉にした。


「……マジか……。

 泉が枯れることすら計算尽くなのかよ……。

 どんだけ狡猾なんだよ、そいつ……」

「ホッホ。

 やはり調査依頼は楽しいもんじゃのぅ」

「となると目印は、この枯れた泉の周辺から見える岩場と地形、ですか」

「地図から察するとそのようじゃのぅ。

 示す岩は恐らくバルヒェットから12キロほど歩いた場所にあるここ、現在では誰も向かわないと言われている"マルグリットの巨岩"のことだと思うわい。

 ……ふむ、枯れた泉を正面に大岩を眺めると、月が道を示すと書いてあるの。

 ここから先はその場所に行ってみんと判断ができぬかの」

「なるほど。

 月明かりが正確な場所を教えるってことか」

「随分漠然としたものに思えますが、それも行けばわかるのかもしれませんね」

「ホッホ。

 こういった楽しみを冒険の中に上手く取り入れるのがベテラン冒険者とも言えると、ワシは思うのう」


 とても楽しそうに言葉にするローベルトだった。

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