大盗賊
大盗賊の残した財宝のありかを記した地図。
そう聞いただけで失笑する者も多いだろう。
ありもしない偽物だと鼻で笑う者も少なくはないはずだ。
そんなものを探すよりも、遺跡を探検した方が金になると考えるかもしれない。
だが、目の前にいる男性の瞳には、まったく違った色が灯っている。
現在でも活動している冒険者と同じような鋭さで地図を見続けていた。
「マジかよ……」
「大マジじゃよ、エトヴィン。
ワシが現役なら本気で探すほどにの」
はっきりと言葉にするギルドマスターだが、実際にそう思えるだけのものがこの古びた地図にはあるんだろうか。
それも時代から察すると、彼女の生きた時代と同じと思われた。
「……レリアがいた時代の話ですか」
「うむ、そうじゃの。
とはいえ、聖女とは活動範囲が違いすぎるからのぅ。
直接的な繋がりがあったとは文献にも書かれておらんよ」
もしレリアが関わっていればすぐに逮捕していただろうと、ローベルトは笑いながら話した。
それこそ大盗賊などと呼ばれる前に捕まえていたのは確実なほど、彼女の実力は本物だったと文献には記されているらしい。
これについてはフランツの方が詳しいだろうと彼は続けた。
「思えば彼女は世界中を飛び回るように活動しておったそうだ。
この国を荒らし回った大盗賊といっても、それを捕まえるのは当時の憲兵の役目じゃし、残虐無慈悲なドラゴンや、人々を恐怖に陥れた魔物どもを退治しながら世界を歩いたと伝え聞く。
一国の盗賊退治まで手が回らなかったのかもしれんの」
フランツからは彼女の逸話を少し聞いていたが、まさか物語に出てくる勇者みたいに人々のためになるような慈善活動をしていたんだろうか……。
そんな目立つようなことを続けていれば、そりゃあ200年後まで名は轟くか。
熱狂的なファンは絶えることがないらしいし、それだけの強者であれば国からの依頼は引く手あまたなのは間違いない。
人の頼みを断るに断りきれない、奇特な女性だったのかもしれないな。
まぁ、レリアの話はいい。
興味がないかと聞かれたら否定したくなるほどの華々しい武勇伝をたくさん持つ女性のようだが、それはまたフランツに会った時にでも聞けばいいだろう。
その時まで憶えていれば、ではあるんだが……。
それよりも問題は、この古びた地図が本物かもしれない点か。
どうやら俺と同じことをエトヴィンも考えていたようだ。
「根拠はどこなんだ?
そう言えるくらいのものが、ここにはあるのか?」
「もちろんじゃよ。
ほれ、ここじゃな。
地図の右下にある短剣の鞘に小さく描かれた、額に角のある獅子の紋章。
これは大盗賊ルートヴィヒが正解の地図にのみ載せてあると文献にはあった。
これまで数多くの地図を見てきたが、"角獅子"はこれが初めてじゃよ」
何か思うところがあるのだろう。
もしかしたら、冒険者だった時のことを思い出しているのかもしれないな。
真剣な眼差しを地図に向け続けたまま、彼は小さく呟いた。
「……これも、何かの導きなのかのぅ……」