鼻摘み者
窓から射す光に、きらきらと煌く金色の指輪。
ずしりとした重さから、本物の金を多く含むのだろう。
これ自体が厄介なものであることはまず間違いない。
それを理解した上でふたりは言葉を失ったんだろう。
エトヴィンも確証が持てなかっただけで、薄々は感じていたのかもしれない。
そういった強張った気配をふたりから感じ取っていた。
「これについての詳細はわかりますか?」
「……ふむ。
これはまさか、マルティカイネン家の紋章かの……」
「……やはりお貴族サマか……」
「……うむ……じゃがの、トーヤ殿……」
なんだ?
こちらを見つめる瞳に険しさが出始めた。
冷や汗すらかいているようにも見える。
「……そんなに厄介な相手なんですか?」
「マルティカイネン家は南方にあるパルヴィア公国内に領地を持つ大貴族での。
色々と黒い噂が絶えないどころか、あまり褒められた趣味を持たぬと聞く」
「連中は奴隷を裏で買い付け、拷問して飽きたら処分する、なんて噂がある。
本当のところは誰も知らない、いや、探れば確実に消息不明となるらしい。
裏社会どころか、暗殺ギルドと深い繋がりがあるとも言われる危険な貴族だ」
マジか……。
暗殺ギルドなんて恐ろしいもんがこの世界にはあるのか……。
その存在に血の気が引いていく中、エトヴィンは話を続けた。
「当然、奴隷制度をパルヴィア公国は認めていない。
むしろ闇組織を根絶やしにする勢いで撲滅に取り組んでいる国だ。
大貴族十数名で公国を支えているが、その中でも鼻摘み者と言えるだろうな」
「暗殺ギルドの拠点やその構成員数は現在でも一切判明していない謎の組織じゃ。
発見はもちろん、有益な情報提供をした者には多額の懸賞金が支払われるが、残念ながら誰も見つけられないどころか、行動に移すと必ず消されてしまう。
最近ではその恐ろしさから誰も関わろうとすらしなくなってしまっての。
非常に危険な組織として、世界中の人に恐怖を与えておるんじゃよ」
強張った声から連中がとんでもない存在なのは理解できる。
世界中の国が躍起になって探ろうとするも、現在まで本拠地の発見には至っていないのが現状らしい。
小さな拠点を見つけても常にもぬけの殻なことから、政府や国の中枢に内通者がいると確信は得ても、その根拠となる繋がりが見つからず、手を出せないまま十年以上の時がすぎているようだ。
たとえあの男の標的がマルティカイネンとかいう一国を支える大貴族だったとしても、闇組織と通じている可能性が非常に高い。
とんだ大物を狙ってやがったのか、あの男は。
……いや、だとすればおかしな話だ。
いくら鍛えているとはいえ、昏睡魔法が通じる相手とも思えない。
馬車の中には凄腕の護衛もいただろうし、戦いになれば最悪な結果に繋がる。
そういった状態異常の一部を無効化する魔導具があると勉強しているし、それがどんなに破格だろうと手に入れられる資金力が向こうにはあるはずだ。
裏社会に深く通じている相手なら、こんな指輪を手に入れたところでどうこうできないと俺には思えるが、あいつはこれをいったいどうしようとしていたんだろうか……。




