実に嘆かわしい
北の町まで行くにあたって、エトヴィンはひとつの提案をした。
「ついでに何か依頼も受けていけば、ちょっとした報酬も手に入るぞ。
冒険者ってのはそういった意味で幅広く自由だから、正直羨ましいよ」
「そうじゃの、ワシも冒険者になりたての頃は必ず受けておったの。
確かこのギルドにもバルヒェットへの配達依頼がいくつかあったはずじゃよ。
まだ残ってるかはわからんが、完了報告は受けとらんから問題なかろうて。
商人とは違って軽い配達物じゃから、馬車がなくても安心して運べるぞい」
冒険者ギルドにはあまりないが、商業ギルドの配達依頼ともなると重量が増える場合も多いらしく、それこそ馬車を所持していなければ送り届けられないような荷物運搬も多数貼り出されているようだ。
これについては、商業ギルドで初めて依頼を受ける際の注意事項として、受付の方に教えてもらえるようになっているらしい。
インベントリ持ちである点を最大限に活用すれば、それこそ馬車ごと収納できてしまうかもしれないんだが、悪目立ちしすぎるのは正直よくない。
他国の軍人やら政治家、貴族なんかに目を付けられた結果、この子達にも悪影響を与えかねない以上、スキルに頼った活動は避けるべきだ。
……いや、商人達にも喉から手が出るほど欲しがる能力だな。
何もない場所に収納しているようにも見えるから違和感を覚えるが、大量の荷物を楽に持ち運べるこのスキルがあれば、大商人どころか豪商として世界中に名を轟かせることも可能になる。
それもありえないほどの短期間で、世界一の商人とすら呼ばれるかもしれない。
だが、はっきり言って俺には厄介事にしか思えない。
そんな悪目立ちすれば、迷惑ではない事態が永遠と押し寄せてくるだろう。
下手をすれば町すらまともに歩けなくなる可能性だって否定できない。
やはり様々な点を考慮しても、俺が空人であることやインベントリに関した情報を話さない方がいいだろうな。
このふたりは俺の持つ特殊なスキルを伝えても逆に注意してくれる人達だが、ふたりのように優しい理解者だけじゃない世の中なことだけは確かだ。
ディートリヒ達のように信頼の置ける友人知人であっても、今後は黙っておくのがいいんだろうか。
「折角じゃし、バルヒェット冒険者ギルドに手紙でも届けてもらおうかの」
「それくらいなら俺じゃなくてもいいんじゃないですか?」
それこそなりたて冒険者の経験を積ませるために取っておいた方が、とも思う。
ふと頭の中をよぎったが、どうやら一般的な手紙の配達ではないらしい。
執務机から取り出した、少々質のいい紙で作られた便箋を俺の前に差し出す。
「これはかなり信頼できる者にお願いしたい手紙での。
宛先はバルヒェット冒険者ギルドマスターなのじゃよ。
当然じゃが、勝手に封を開けられては色々と問題が出る。
信用問題にまで発展する行為にもなるが、残念ながら罰金程度なんじゃよ」
「つまり、興味本位で開けるような短絡的な馬鹿が冒険者にいるってことですか」
「そういうことじゃの……。
まったく、実に嘆かわしいことじゃよ……」
深く深くため息をつくローベルトだったが、急激に老けたようにも見えた。
どんな仕事にもストレスはつきものと言うが、彼に限って言えば数多くのストレスにさらされているのかもしれないな。