条件
ローベルトと同じように、エトヴィンも優しい眼差しで答えた。
「この国には第31条4項があるから、それを適応できるだろうな」
「うむ。
身元引き受け人といかないまでも、ある程度信頼、実績のおける冒険者が信用した者を保護したり、犯した罪に対し贖罪の機会を与える、というものじゃ。
今回はトーヤ殿の言葉にこの法律が適応されることになるが、あくまでもそれは償いの機会を与えるだけで、何か別の罪を犯せばすべての権利を剥奪されかねないものなんじゃよ。
……あとは彼らの頑張りにかかっとる、ということになるの」
つまりはエルルもこれに該当し、ギルドが保護できる法律になっている。
それがたとえこの子の記憶がなくても基本的には関係ないという。
万が一、精神ならびに肉体的に何か問題を抱えている場合は別の施設に預けられることになって管轄が変わるらしいが、申請をすれば逢えなくなったりすることもないようだ。
「あとは本人の意思が必要になるんだが……」
「ホッホ。
それをこの子に確認するのも野暮じゃよエトヴィン。
あとはすべてトーヤ殿次第、とも言えるかのぅ」
「それはつまり、エルルの家まで送り届けることも可能、ということですか」
「うむ、そうなるの」
「――それじゃあ!?」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔を見せて言葉にするエルル。
暗く、重苦しい気配を纏っていたが、ここにきて話が好転した。
しかし、記憶のない少女を連れ歩くデメリットも多い。
だからこそ俺は、エルルに視線を合わせて話した。
「いくつか条件がある。
ひとつ、俺の言うことを聞くこと。
勝手な行動をされたら迷惑どころか、護りきれない可能性がある」
「――! うん! わかった! 言うことをしっかり聞く!」
「ふたつ、自分の身を護れるだけの強さを手に入れてもらう。
これに関しては俺が教えられるから、ひとつ目の条件にも繋がるか」
「わかった! あたし、強くなる!
トーヤに心配されないくらい強く!」
「みっつ、この子達の良き姉になってほしい。
下手な行動を取れば、この子達にも悪影響が出る」
「うん! いい子でいるし、いいお姉さんになる!
ついでにイイオンナになってトーヤをメロメロにする!」
それはどうでもいいんだが、まぁ子供に突っ込む必要もないな。
これくらいだろうか。
いや、あとひとつあったな。
「よっつ、一緒に行動するにしても、エルルの記憶次第では家や家族が見つからない可能性もゼロじゃないってことだけは憶えておいてほしい。
それに関しては、たとえ最善を尽くしたとしても限界があると思う。
エルル自身が思い出せなければ、ずっと世界を彷徨い歩くことになりかねないし、そこまでは責任を取れない」
「……うん。
それもわかってるつもり。
でも、どうしてもあたしは北に行きたいの。
ううん、行かなきゃいけないの!」
今度ははっきりと言葉にするんだな。
何か思い出したことがあるんだろうか。
「正確な場所はわかるか?」
「……わかんない。
けど、ここよりも北なのは確かだと思う」
「ふむ、北か。
まずは北北東にあるバルヒェットに行くといいかもしれんの」
「まぁ、だいぶ北東に行けば大きな町もあるが、かなり遠いからバルヒェットが無難だろうな」
「……とすると、乗合馬車か」
「それが安全だな。
この辺りは盗賊もほとんどいなくなってるだろうし、魔物も比較的弱い。
油断はよくないが、少なくとも街道を安全に移動できると思うぞ」
そうエトヴィンは話すが、正直なところ無法者と関わるのはもうごめんだ。
これまで捕縛してきた連中とは明らかに違う強さを持つようなやつと出遭う可能性だってあるんだから、必要以上に関わることは避けたいところだな。




