浅い林の中を
小鳥のさえずりが聞こえる浅い林の中を、俺達はゆっくりと進み続ける。
視界はそれほど悪くなく、魔物の姿は見えないようだ。
フランツから借りた剣を携え、周囲を警戒しながら歩いた。
腰に差しているものは、いわゆるロングソードと呼ばれるものだ。
全長は約80センチ、重さは1キロ程度と軽い片手用両刃剣で、フランツが現在装備している武器に変えるまで使っていたものらしい。
手に馴染むような感覚があるこの剣は、ディートリヒに借りた重さを加えて叩き斬る剣よりも俺には合っているのかもしれないな。
剣に限らず、武器は自分だけに合うものを装備するのが一番だ。
値段や切れ味、作られた素材などで選ぶのはゲームの中だけじゃないだろうか。
素材に関してはまだ彼らから教わっていないので、内容によっては素材からオリジナルの武具を製作してもらう方がいいんだろうな。
オーダーメイドになるから値段も馬鹿高くなりそうではあるが……。
そんなことを考えながらも、足を止めることなく進み続けた。
徐々にうっそうと生い茂る草木を踏み分けるように進み、警戒心を強める。
しかし、これまで魔物を見かけないことが気になった。
周囲に悪意は感じない。
これだけ見通しのいい林の中でそれらと出遭わないのは普通のことなのか。
この世界にはそれほど多くの魔物が生息していないのかもしれない。
これについても後で詳しく聞いた方がいいだろうな。
とはいえ、余計な敵との遭遇は体力を無駄に浪費する。
出遭わない方がいいに決まってるんだが。
「……この辺りだな。ロランスさんの言っていた場所は。
警戒しろよ。どこから盗賊が飛び出してくるか分からないぞ」
リーダーの言葉に小さくも力強く答える仲間達。
ロランスさんとは、盗賊に暴行を受けた女性の名だ。
残念ながら治療も虚しく、帰らぬ人となってしまった。
これについての話も彼らから聞いていた。
いわゆる回復魔法と薬の限界についての話だ。
瀕死の重傷を負ってしまうと、普通の回復魔法や薬は効かなくなるらしい。
ステータス的に言えば、HPが0になるだけで即死するわけではない。
その状態は瀕死と呼ばれるもので特殊な魔法か秘薬を使わなければ回復しない。
とても高価なもので実質死亡宣告とも言われる瀕死だが、彼女の場合発見が遅れたことが命を救えなかった原因だと、ディートリヒ達はとても辛そうに話した。
当然、致命傷となる強烈な一撃を受けてしまえば、その時点で命は尽きる。
どんな傷でも治るわけではないと彼らから教わった。
瀕死を回復する魔法にいたっては、発動にかなりの時間を要する。
発動が遅れてしまうと今回のように手遅れとなってしまう。
しかし、もう一度だけチャンスを与えられたようにも思えてならない瀕死からの回復は、適切な処理をすれば命を救うことができると言い換えられるだろう。
それでも。
たとえ高度な復活魔法を使えようと、命を救えないのでは意味がない。
エックハルトは無力感に押し潰されそうなほど、悲痛な面持ちを見せていた。
ロランスさんの発見がもっと早ければ。
盗賊に襲われる前に彼女を救い出していれば。
そう思えば思うほど、あの惨状を作り出した連中に怒りが込み上げてくる。
鋭い表情と明確な怒気を含んだ低い声色で、彼らは俺に話した。
何人いるかも分からない盗賊を相手にするんだ。
警戒を厳に進むのは正しい。
だが、ひとつだけ良くないと思えることが、俺はずっと引っかかっている。
彼らは少し、気負いすぎのように感じられたからだ。
このままでは、盗賊団のボスと対峙しただけで冷静な判断が下せない。
怒りに任せて剣を振るう可能性だってあるかもしれない。
俺にはそれが気がかりで仕方なかった。
気合が入るのは悪いことじゃない。
しかし冷静な判断ができなければ、勝てるものも勝てなくなる。
それはすなわち、死に直結する危険な気構えになるだろう。
やはりボスの相手は俺がするべきだな。
どうやらそれがいちばんの最善策のようだ。
俺もロランスさんと出逢っていれば、彼らと同じように冷静ではいられなかっただろうけど。