どうしようもない
デルプフェルト冒険者ギルド。
ここに来るのも3度目になるか。
頑強に作られた重厚な扉は常に開かれ、両開きの内扉を開けて入館する。
この世界では極々一般的なものらしいが、いかにもなファンタジー感を連想してしまう造りと、冒険者という響きだけでも興味が尽きない。
依頼内容は周囲の魔物討伐、調査、採取、配達、護衛が主で、冒険者が隣町や近隣の町に行く際は関連する依頼を受注してから出発するのがほとんどだ。
魔物討伐と調査依頼以外の採取、配達、護衛に関しては、商人たちが多く在籍する巨大コミュニティーである"商業ギルド"でも同じような依頼を受けられる。
まったく同じ依頼書も中にはあるらしく、依頼受注と同時に情報が共有され、受注者が重ならないようになっているらしい。
ダブルブッキングや受注者が依頼主と合流する前に出発されるのを防ぐためのもので、その場合は多少ギルドで確認されるまで待つこともあるようだ。
もちろん安定した供給を求められる依頼は常に張り出され、初心者冒険者や、別依頼のついでに達成する者も少なくはないと身分証を受け取った時に聞いた。
そういった細かなことまで教えてくれた目の前の女性クラリッサに連れられて、俺達は3階にあるギルドマスターの部屋へ向かった。
短い道中で何となく聞いてみたが、通常業務とは別に秘書のようなことまでさせられていると、彼女は笑顔で答えてくれた。
それだけ重宝されている職員なのは、物腰の丁寧さだけでなく彼女の的確でわかりやすい説明からも理解できるが、随分と他の同僚とは仕事量が違うと話した。
「いっそ、空席のサブマスターにでもなればいいんじゃないか?
そうすりゃクラリッサの給金もかなり上がるだろうし」
「ご冗談を、エトヴィン様。
私は今の職務に満足しております。
むしろ通常業務のみをさせていただきたいくらいです」
「有能な人材はどこでも重宝されるからなぁ。
最近うちの報告担当官が辞めちまったし、こっちに欲しいくらいだよ」
「副業が禁止されていなければお手伝いができたのですが……」
「その気持ちだけで十分だ。
なんせ、ほとんど男だらけだからな。
通常業務に差し支えるし、失礼な視線も多いだろう。
どちらかと言えば、女性憲兵が5人ほど欲しいな」
どうやら憲兵でも気を使う女性同士のトラブルに、専門の憲兵隊を新たに作りたいのだと大隊長と話をしているのだとか。
特に女性冒険者と渡り合える人材を新たに育てるには、時間も手間もかかる。
おまけにキツイ、汚い、汗臭いといったイメージがついている憲兵になろうなんて女性は非常に少ないようで、常に人材募集をしているそうだ。
非常に待遇のいい募集をし続けているが、憲兵になるくらいなら冒険者になる女性が圧倒的多数で、残念ながら女性だけの小隊を作るという目標は難しいと判断しているのが現状だとエトヴィンは話した。
「まぁ、街の外に出ないとしても危険な職業であることは変わらないし、人数の少ない女性憲兵はいつ呼び出されるかもわからない。
冒険者を引退した女性でも結婚して子供が、なんてことも多いんだ。
給金が良くても割に合う仕事じゃないと思われやすいんだよ」
そう言葉にした彼は、俺よりも給金がいいんだけどなと小さく呟いた。
小隊長であるエトヴィンよりも高給が支払われる条件でも集まらない以上、もうどうしようもないわなと彼は半ば諦めた様子で肩を落とした。