その先にあるものが何かは
とても小さく呟くように、しかしはっきりと男は言葉にした。
……あぁ、わかってたよ。
だからあんなにも強い復讐心に燃えていたんだろ?
はらわたが煮えくり返るくらい憎悪が抑え切れなかったんだろ?
戦った相手の感情くらい俺は読めるよ。
ましてやあれほど強い想いを抑え切れなかったんだ。
それに気がつかないわけないじゃないか。
「わかってるつもりだ。
だからこそ、あんたは生きるべきなんじゃないか?」
「……憲兵が俺を逃がすとも思えないな」
「それを判断するのは俺達じゃない。
さっきも言ったが、ここは隣国ですらないんだろ?
どうなるかを決めるにはまだ早いと俺は思うが」
「……俺を逃がせば、あの男を狙うぞ」
「正直知らんし、本音を言えば興味もない。
南方はもちろん、他国に行く機会も今は考えてないしな。
それに、そうされるだけの要因をそいつが作ったんだろ?
そういったことは自分で責任を取るべきだと、俺には思えるんだよ」
その責任は自分自身でなんとかしなければならない。
それがたとえ、お偉いお方と人々から呼ばれていたとしてもだ。
そんなこともわからないような馬鹿なら、そう先はないかもしれないな。
遅かれ早かれ法とは違う裁きを受けることになるだろう。
「……甘いな」
「どうだろうな。
単に降りかかる火の粉を払いたいだけだと思うぞ。
でも、あんたほどじゃないにしても、親の気持ちってのを少しだけ理解してきたような気がするんだ」
「………………そうか」
とても小さく呟いた男は、声を殺して涙した。
剣を交えれば様々なことがわかると、師である父は教えてくれた。
本当にそうだと思えるような想いに俺は触れた気がしたんだ。
俺みたいなガキにだってわかるよ。
あんたは悪人なんかじゃない。
歯車を狂わされた被害者なんだって。
あんたほどの男を復讐鬼に変えてしまうようなことを、指輪が示す家柄の者がしたんだろ?
わかるよ、大切な人を護れなかったことくらいは。
わかるけど、それでもその道は破滅にしか繋がらない。
すべてを投げ打ってでも為し遂げたいことだったのかもしれないけど、その先に待ってるものが幸せな道だとはとても思えないんだ。
でも……。
「……同じ状況なら、俺もあんたと同じことをするかもしれない。
でも、あんたとは違う道で償わせようとするかもしれない、とも思えるよ」
それがいいのか悪いのかは、俺には答えられない。
それでも復讐を望むんなら好きにすればいい。
復讐を果たすことで気が晴れて、心が開放されるのかもしれない。
その先にあるものが何かは、その先に行った者じゃなければわからないんだろうから。