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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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こぼれた言葉

 嬉しさと、与えられるかもしれない可能性の未来に想いを馳せながら、男達は涙を流し続ける。


 俺が取る行動を、この子達はどう思いながら見ているんだろうか。

 願わくば、他者を重んじる優しい子になってほしいが、こんな行動を取っていれば難しいかもしれないな。

 最悪、反面教師になっていればそれでいいか。

 ……あまり深くは考えないようにしよう。



 さて、問題となるもうひとりだが。

 こちらは俺がどうこうできるような男じゃないかもしれないな。


 強い憎しみと激しい怒りが混在した気配を、俺ではない別の存在に向けている。

 その理由もおおよそは理解しているつもりだが、下手なことを口にすれば怒らせるだけなのは明白だ。


 トシュテンと名乗る男がフラヴィとブランシェに危害を加えるとは思えない。

 しかし怒りに任せて感情をぶつけてくることもあるかもしれないんだ。


 このままデルプフェルトへ連行して憲兵隊に引き渡す。

 それが上策で、もしかしたら最善策なのかもしれない。


 だが、俺にはどうしても聞きたいことがある。

 このまま町に連れて行くよりも先に話をしなければならない。


「それで、あんたは何か話す気になったか?」

「…………」


 だんまりか。

 まぁ、俺なんかと話す必要もないんだろうけどな。


「あんたの目的は、この指輪だろ?」


 ポケットから豪華な細工が施された金の指輪を取り出して訊ねた。

 これが何を意味するのか、異世界人である俺にだってわかる。


 それを盗む行為も、襲撃した理由も。

 そしてこいつらが今回の件に加わったことも。

 そのすべてにこの指輪が関わっているんだ。


「この国に、こんな指輪を所持してるやつはいない。

 そんな制度自体、この国にはないらしいからな。

 つまりあんたは他国でこの指輪の所持者と関わりがあったってことになる。

 標的の男がこの国を訪れるって情報を得てこの近くで襲撃したんだろうが、偶然にも俺が関わったんだな」


 この国の制度そのものがそういった社会階層に属する集団を存在させない以上、恐らくは南にある大国辺りの出身か、この指輪の持ち主と繋がりがあるんだろう。

 それについて詳細を訊ねる気はないし、本音を言えば指輪自体を投げ捨てたい。

 これまでこの世界で体験してきたものの中でもダントツで厄介なことになる。


「あんたが他国の出身で、被害者も他国の要人ならどうなるかはわからない。

 動機もおおよそ理解してるつもりだが、そこまで詮索するつもりもない。

 ここは隣国でもなさそうだし、あんたがこれまで歩んできた道を話せば悪いようにはならないかもしれない。

 それを判断するのは俺やあんたじゃなく、憲兵の仕事だ。

 俺はこの子達を護れるだけで十分なんだよ」


 近くにいたフラヴィとブランシェの頭を優しくなでる。

 くすぐったそうに笑顔を見せるふたりに頬を緩ませていると、男は小さく呟くような言葉を口にした。


「…………俺にも……護りたい子が……いたよ……」

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