俺は信用しない
心に大きな戸惑いと強い揺らぎを感じさせるほど、男達はうろたえていた。
俺がした言葉に驚くなって方が無茶なのかもしれないが。
「……な、にを……」
「そ、そんなこと……できるわけ……」
「できる、できないじゃない。
俺はただ報告の際にお前らのことを少し話すだけだ。
どうなるかはデルプフェルト憲兵と冒険者ギルドマスターが判断することで、俺がどうこうできる問題じゃない」
何を言っているのか理解できないんだろう。
固まりながらも考え続け、それでも答えられない表情をしていた。
それも当然だろう。
俺にはそんなことをする必要なんてない。
この場でぶった斬られたって文句は言えないんだ。
目を丸くし続けるふたりに俺は言葉を続けた。
「冒険者に戻ることができれば金も稼ぎやすいだろ?
その金すべてでこれまでの悪事が清算されるとは限らない。
恨みを買っていることだってあるだろうし、受け入れられないかもしれない。
この国の法律がお前らの命で贖えと決めることも考えられる。
でも――」
「……もう一度だけ、チャンスを、くれるってのか?」
「そんなこと……あんたには何ひとつメリットが……ないのに?」
「どうなるかはわからない。
なんにも変わることなく罪を償うだけかもしれない。
もしかしたら本当に極刑が待っている可能性も否定できない。
それでも、もし違う道が与えられるなら、死ぬ気で生きてみろよ」
その言葉にぼろぼろと大粒の涙を流すふたりだった。
好き勝手に悪事を働くやつのことを、人は"悪党"と呼ぶんだろう。
あの盗賊たちもそうだったが、こいつらは違う。
どうしようもないからといって犯罪を犯す人間を擁護するのは間違いだし、するつもりもない。
だが、捕まえておしまいにするだけで解決できる問題だとは思えなかった。
「あとはこの国の法に委ねるだけだ。
どうなるかは俺には答えられない」
「……それでもいい。
それでも、もう一度だけでもチャンスをもらえるなら、俺は絶対にあんたの期待を裏切ったりはしない」
「……俺だって……そうだ。
恩人の顔に泥を塗るようなマネはできないし、絶対にしない」
「その言葉を俺は信用しない。
信用されたければそれに見合う行動をし続け、モラルを持ち続けろ。
生涯をかけて、人が悲しむようなことを二度とするな」
そこからはもう、嗚咽をあげながら号泣しかできなかったようだ。
どれだけの想いを抱えていたのかは、この姿を見れば子供でもわかる。
この世界は本当に、いや、これは文明力も関係しているのかもしれないな。
現代よりも法が抜けているのは理解できる。
穴だらけの可能性も高いんじゃないだろうか。
恐らくだが考えている以上にひどいとも思えた。
俺の言葉に影響力はない。
こんなガキひとりの言葉で何かが変わるってもんでもない。
それでも俺には、このまま憲兵に引き渡すことだけはできないと思えた。
それが正しい道じゃなかったとしても、俺にはできないと思えたんだ。