諦めるんだな
話を詳しく聞いてみたが、例のあの人とは今回初めて接点を持ったらしい。
しかも、話を持ちかけられたことや馬車襲撃のシナリオを書いたのもそいつで、合流場所から分け前となるものを売り捌くルートも知っているという。
可能性の話ではあるが、そういった"闇"を知る者かもしれないな。
だとすると、ここに膝をついている馬鹿どもよりも遙かに有益な情報を持つ。
合流場所もここからそう離れてはいない。
多少危険ではあるが、野放しにすることの方が厄介になる場合も考えられる。
今回だけの繋がりだとしても、こいつらを奪い返しに来る可能性も……。
いや、それはないか。
この二人が持つ情報だけで逮捕できるとは限らない。
名前だって偽名を使っている意味のないもののはずだ。
そういった狡猾なやつが、そう簡単に捕まるとも思えない。
……となれば、逆に大物の可能性も出てくる。
根深く闇に関わっているような男かもしれない。
「捕まえるしかないな」
「お、おい!? 俺達はどうするんだよ!?」
「こんなところに置き去りはやめてくれよ!
数が少なくても魔物だって歩いてるんだぞ!?」
「人攫いが助けを求めても失笑しか出ない。
魔物と出遭ったら、運が悪かったと諦めるんだな。
運が良ければ回収して憲兵に引き渡してやる」
唖然とするふたりが何か言おうとした瞬間、俺は睨みを利かせ黙らせた。
馬鹿どもの話をいちいち聞いてやるほど時間もない。
さっさと捕まえに行くとするか。
気絶した少女を抱かかえてブランシェに視線を向けると、どうにも微妙な瞳で連中を見つめているのに気がついた。
まさか……いや、まさかな。
恐ろしいことを考えていると、しょぼくれる男どもにわうわうと強めに吠えた。
幼いながらにも呻るブランシェに、どことなくこの子の母を思い起こす。
やはり血は争えないってことなんだろうか。
可愛らしさの中に、強い勇敢さを感じさせる呻り声だった。
そんな様子を見ていると、不思議とこの子の言ってることが伝わった気がした。
連中が逃げてしまった場合、どうなるのかをこの子は警告しているのだろう。
だが、それはしっかりと改めてもらわなければならない。
しゃがみ込んでブランシェに視線を合わせながら俺は注意をした。
「だめだぞ、ブランシェ。
こんなやつらを食べても腹を壊すだけだ。
こんな馬鹿どもでも一応は人間なんだからな。
どんな悪党でムカついても、人間は食べちゃダメだ」
「「ヒッ――」」
「わぅ!?」
真っ青に血の気が引いたふたりと目を丸くして涙をいっぱい溜めるブランシェ。
何とも言えない空気に、そういうつもりじゃなかったのだと知った。
ブランシェの言葉を代弁するように、フラヴィが教えてくれた。
「あのね、ぱーぱのいうこときかないと、がぶっとするぞって、ぶらんしぇいったの」
「そうか。
ごめんな、ブランシェ。
俺はてっきり、腹が減ってるのかと思ったよ」
「わぅぅ……」
はらぺこわんこでも、さすがに人間は食べるつもりがなかったようだ。
勘違いだったことをしっかりと謝りながら、しょぼくれる子の頭をなでた。




