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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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くだらないことのために

 まずは紙切れ。

 大昔、この国を荒らし回った盗賊が集めた財宝のありかを示したものらしい。

 それ以上のことはこいつらも知らないそうだが、そんなものの類はまずハズレで間違いないだろうな。

 徳川埋蔵金をスコップで探し当てるようなもんだろうし、俺はトレジャーハントにも興味はないから、正直なところこれは紙切れ同然の価値にしか思えない。



 次に指輪。

 これはデルプフェルトと西の町ヘルツェルを繋ぐ街道で馬車を襲撃し、上等な服を着ていた乗客からいただいたものらしい。

 護衛もいたが対象を睡眠状態にするスリープ系の魔法を使い、入手したそうだ。

 無傷で手に入れたことをどこか自慢げに話すこいつらに苛立ちを募らせながらも冷静に話を聞いていたが、どうしても思わざるをえない言葉が頭をよぎる。


 ……いたよ。

 街道で馬車を襲う馬鹿どもが、ここにも。


 だが今回は誰も怪我させることなく終わっているようだ。

 その手際のよさを褒めるべきか、襲ったことを(とが)めるべきか。


 ……いや、咎めるのは俺の役目じゃないな。

 そういったことは治安を預かる憲兵に任せるべきだ。

 聞きたいことは増えたが、次だ。



 襲っていた少女について。

 この子は馬車に乗っていた子で魔法が効かなかった少女、ではないらしい。

 あくまでもこいつらの話を信じれば、ではあるが。


 街道で馬車を襲撃したあと、もうひとりと合流するようにこの周辺の林へと向かったこいつらは、その途中で偶然この子を見つけた。

 顔を見られたこともあり、周囲に大人もいなかったので(さら)おうとしたが思っていた以上に逃げ足が速かったんだと、呆れるような言葉を言い放った。


 正直なところ、こいつらの言動に嘘はない。

 だが、その上で苛立ちを抑えきれない俺がいる。


 林をひとりで少女が歩いてた。

 それも大人を連れずに。

 だから攫った?


 ……意味がわからん。


 どうやら俺の"言語理解"スキルにも限度があるらしい。

 誰かこいつらの正確な翻訳を頼めるような人物はいないものか。

 このスキルも英数字にランクが上がるんだろうか。


「う、嘘じゃねえよ!

 本当のことだ!」

「俺たちゃ金が欲しかっただけだ!」

「そんなくだらないことのために、こんな小さな子を追い回したってのか?」

「「ヒッ――」」


 ……っと。

 強めに威圧が自然と出てたか。

 まだ聞きたいこともあるし、会話ができる程度には弱めないとな。


「念のため聞く。

 お前らは善人を殺したことがあるのか?」

「こ、殺してねぇよ!」

「俺もだ! そこまで悪党じゃねえ!」

「――人攫いは重罪じゃないってのか?

 それもこんな小さな子を追いかけ回すことに何も思わないのか?」


 イラつきを抑えきれない。

 俺は感情のまま、威圧を馬鹿どもに放っていた。


 涙目で歯をかちかちと鳴らしながら恐怖していても、こんな連中には何の感慨も湧かないんだと知った。



 だが、嘘は言っていないようだ。

 小悪党が背伸びをして少女を攫おうとした?

 ……なんの冗談だよ。


 人を殺していないならそこまで人の道を外れたとは思えないが、それを判断するのもまた憲兵か。


「攫ってどうするつもりだ?

 ブラックマーケットにでも流すのか?」

「く、詳しくは俺達も知らねぇよ。

 俺たちゃガキを連れて、どうするかを考えるだけだったし」


 まだ救いがあるだろうと言わんばかりだが、そんなことよりも遙かに気になる言葉が先ほどから飛び出している。

 攻撃する前にも話していたし、それについても訊ねなければならないな。


「――で?

 あの人(・・・)って誰だ?」


 その言葉に、ふたりの血の気がみるみるなくなった。

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