不思議とそう確信した
ふたりの様子から、様々な懸念が解消されていたことに気がつく。
まだ確かめてはいない戦闘となった場合のブランシェの行動も、恐らくはもう大丈夫だろうと思えた。
しっかりと俺の言葉を聞いてくれたし、次は無謀に突っ込むこともないはずだ。
身体的に申し分のないブランシェに比べ、フラヴィは戦闘向きじゃないと感じていたが、それも解決されたといっていいだろう。
話をして確認を続けたが、どうやらかなりの知識を俺から受け取っているようで、基本的な体捌きや剣捌きだけじゃなく、相手との距離間や駆け引きといった感覚的、戦術的なものまで体得しているこの子は、このまま魔物と戦えるだけの強さがすでに身についているのを確信した。
あとは実戦での経験と魔物の知識、技術の練度を高めていくだけで強くなれる。
正直なところ、不安とさえ思っていたこの子が極端に強くなってしまったことに強い違和感を覚えるも、この子が安全に世界を歩けるためには必要な力になるし、それを深く考えて否定する意味もないからな。
都合のいいことかもしれないが、あまり考えないようにしよう。
フラヴィは人の姿になってから、急激に色んなことができるようになったはず。
にもかかわらず、力を振りかざしたり試そうとしないことに俺は安堵した。
やはりこの子は、力が何かをしっかりと本質で捉えているんだろう。
すぎた力は相手を必要以上に傷つけることも、自分だけじゃなく大切な人まで傷つけてしまうことまでこの子は理解しているんだ。
そういった種族なんだろうな、フィヨ種ってのは。
たとえ人の形を取れたとしても、その本質は変わらない。
この子はとても優しくて、誰かを護ることを重視する子だ。
それが俺には何よりも嬉しく、心から誇らしく思えた。
とはいえ、3歳児の見た目とつたない話し方が物語っている。
この子にすべてを任すのは、まだまだ早すぎる。
いくら武器を持って戦うことができるといっても、この子はとても幼い。
ブランシェも含め、いきなり戦闘を任せるのではなく、まずは相手をしっかりと見据えて距離を保ち、防御と回避に徹することを伝えると、ふたりは素直に頷いてくれた。
「いったん町に戻って、フラヴィに必要な物を買い揃えるか」
「ふらびい、ぱーぱがくれたのでいいよ?」
「そうもいかない。
その靴じゃ怪我をするし、何よりも長旅に耐えられるようなものでもない。
服や装備品も必要になるし、一度は町に行って旅の準備をしないとな」
「わぅ……」
寂しそうに答えるブランシェに、俺は笑顔で答えた。
「ブランシェにも何か必要な物を買おうな。
ブラシとかは必需品になるだろ?」
「わふっ」
ブラシの意味はわかっていないんだろうな。
何それ楽しそうって感じの輝きが瞳に映ってる。
まぁ、気に入らなければ別のを探すし、きっと気に入るはず。
でもまずは、悪意を向けない人や町での対応をしっかりと話さないとな。
湖畔に置いた物をすべて回収し、綺麗になった場所を見ながら感慨にふける。
ここは本当にいい場所だった。
綺麗で、見通しが良くて、釣りもできた。
フラヴィが生まれた場所でもあるんだよな、ここは。
でも、きっともう、ここに戻ってくることはないだろう。
町へと向かう足を止め、一度だけ振り返った俺は、不思議とそう確信した。




