この子の答え
体術を使って動きながら遊んでいた子を呼び寄せ、俺は訊ねる。
魔物と戦いたいのか、それとは無縁の静かな暮らがしたいのかを。
そして俺が空人で、この世界の住人ではないことを伝えた上で目的をしっかりと話し、言葉を交わせるようになったこの子の答えを静かに待った。
元々俺はこの世界に長居をするつもりはない。
これは最初からまったく変わっていない目的のひとつだ。
世界を気ままに歩きたいとは思っているが、それは目的を達成するまでになる。
とはいえ、あれから随分と状況が変わっている。
ふたりをこの世界で生きていけるだけの強さにすることが最優先だ。
すでにそれを手にしたフラヴィだろうと、このまま放置することはできない。
こんなにも幼いこの子達を置き去りに帰ることなんて、できるわけがない。
今すぐに戻れると知っても、俺はその道を選ばないだろう。
たとえ今すぐじゃないと戻れないなら、別の帰還方法を探すだけだ。
ブランディーヌとの大切な約束もあるんだ。
それを破棄することは絶対にできないし、俺自身この子達を放ってはおけない。
フラヴィはしばらく悩んでいた様子を見せるが、俺が気にしていたこととは別の答えが返ってきた。
「ふらびい、ぱーぱのそば、いちゃだめ?」
「フラヴィが望むなら、ずっと傍にいるよ」
「ふらびい、ぱーぱと、ずっといっしょがいい」
「……そうか。
わかった、ずっと一緒にいような」
「うんっ」
満面の笑みでとても嬉しそうに答えたフラヴィに、俺も素直に嬉しく思えた。
魔物についての話も再度訊ねてみたが、物音に飛び跳ねていたこの子からは想像もしていなかった言葉が飛び出した。
「まもの、こわいけど、ふらびいもたたかう」
「……無理しないでいいんだぞ?」
「たたかうのも、ぱーぱといっしょがいい」
「わうっわうっ」
「うん、そうだね。
ぶらんしぇも、いっしょにたたかうって」
「わうっ」
「そうか、ありがとうな、ふたりとも」
その選択がこの子達にとって必要なことなのは間違いない。
この世界には、言葉で解決できない存在が確かにいるからだ。
そういった存在は、ためらいなく命を奪いに来るだろう。
だからこそ、護れる強さが必要になる。
誰かを殺める手段ではなく、自分と、大切な誰かを護りきれる強さが。
この子達に修練を強要するつもりはない。
でもそれなりに強くなってもらわなければ、悲しいことになるかもしれない。
俺はそれが何よりも怖い。
フラヴィは俺にとって大切な家族だし、ブランシェは託された大切な子だ。
どちらも傷ついて欲しくないし、ひとりでも生きられる強さを手にして欲しい。
そう思っていたが、どうやらそれは俺の杞憂だったようだ。
この子達は、いや俺達はとても似通っている。
自分ではなく、誰かを護りたいと願い、強くなりたいと思ってるんだ。
なら、きっと俺がするべきことは決まっている。
「みんなで一緒に強くなろうな」
「うんっ」
「わうっ」
誇らしく思えたふたりの想いを知り、俺はふたりの頭を優しくなでた。
とても嬉しそうに、どこかくすぐったそうに目を細めてふたりは喜ぶ。
そんな大切に思えるふたりを、俺は絶対に護り通してみせると心に誓った。
強く、強く誓った。