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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第六章 僭称するもの
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どうでもよくなった

 人間、冷静さを失うと判断能力を失うどころか、幻覚や幻聴を体験するらしい。

 朝っぱらから寝ぼけているのではなく、まだ夢の中にいるのかもしれないな。


 夢とは、睡眠中にいかにも現実であるかのようなイメージを体感したり、希望や願いからそういった幻想を見る現象、もしくは将来なりたいものや、こうありたいと願う未来のことだ。


 高校生である俺が幼い少女に"パパ"と呼ばれることを望んでいるとはとても考えられないことであり、たとえそれが深層心理で俺がそう望んでいたとしても、それはあたかも現実的に起こった出来事のように見せている幻覚の一種にすぎない。


 以上のことから、これは夢の中である、という結論に辿り着いた。


 冷静さを保つため、瞳を閉じて心を落ち着かせる。

 むしろ疲れがどっと出てきた気分だ。

 慣れない野営生活の弊害か。


「ぱーぱ、ねるの? じゃあ、いっしょにねるー」

「…………幻聴じゃないな、これは……」


 いい加減、逃避するのはやめよう。


 瞳を開けて目の前の子に視線を向ける。

 見た目は3歳くらいで白い肌の幼女だろうか。

 身長も90センチちょいに黒髪黒目。


 この重さもぬくもりも、幻覚ではないことは疑いようがない。

 あまりのことに脳内が混乱したが、その姿からおおよその理由もわかっていた。


 そしてこの子が誰なのかも。


「……念のため、名前を聞いてもいいか?」

「ふらびいは、ふらびいだよ。

 ぱーぱにつけてもらったおなまえ」

「……そうか」


 まぁ、わかってはいたんだが……。

 というよりも、それ以外の理由が俺には思い当たらない。

 ステータスを確認すると、やはり新しいスキルを習得していたようだ。



 "特殊成長"

 スキル効果により、通常の魔物とは大きく違った進化を遂げる。



 ……正直なところ、これが原因なのは間違いないだろう。

 確かにフラヴィが人だったらいいとは何度も思ったし、言葉がわかればいろんなことができると考えていたが、それだけで習得できるようなものだとも思えない。

 スキルの効果から察すると、ヒールやキュアのような一般的なものとは違い、ユニークスキルなんだろうな。


 魔物とは成長はすれど、ほぼそのままの姿で成体となる。

 人に似た姿に擬態することができる魔物もごく稀にいるらしいし、あの女性のように人型として最初から生まれる場合もあるんだろう。


 だが、魔物が完全な人の姿を取った例は確認されていない。

 俺が知らないだけの可能性も高いし、そういったケースもあるかもしれない。

 これも空人であることが関係しているのかとも思ったが、恐らくは違うだろう。


「……これは、俺が卵を孵化させる時に力を込めたからだな」

「よくわからないけど、ふらびい、うれしい。

 ぱーぱとおはなし、いっぱいできるから」

「そうか。

 ……うん、そうだな。

 これからいっぱいお話しような」

「うんっ」


 頭から煙が出そうなくらい色々と考え込んでいたが、屈託のないフラヴィの笑顔を見たらどうでもよくなった。


 フラヴィの言うように、これからは話ができるんだ。

 それに食事もこれで同じものが食べられる。

 一緒に歩けるし、買い物だってできる。

 好き嫌いをもっと詳しく知れるし、食べたいものも聞ける。


 それに女の子なんだ。

 可愛い服とか靴とか……。


 そうだった。

 あまりのことに忘れていた俺は、インベントリから予備のローブを出し、フラヴィのサイズに合わせて着せた。

 多少強引に切り取ったので荒々しいローブになったが、何も身に纏っていないよりはましだろう。

 魔物の姿と違って、あのままじゃ風邪を引くかもしれない。


 せっかく人の姿になれるようになったんだ。

 いきなり病気を体験するのは可哀想だからな。


 切り取った布地を使って、簡易的なサンダルも作った。

 ハンディクラフトスキルで靴底にできそうな板を作り、布で包んで履かせる。


 フラヴィはそのままでも大丈夫だと言ったが、そうもいかない。

 薬瓶なんかが割れてガラス片が落ちてるかもしれないんだ。

 こんな板と布じゃなく、まともな靴と服を手に入れる必要が出てきた。


 やはり一度町に戻るか。

 いや、ある程度フラヴィの様子を見て、そろそろ旅に出てもいいかもしれない。

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