ステータス
俺が話した内容はすべて仮定にすぎない。
どうなるかは実戦で試してみなければ分からないだろう。
実際にそんなことは不可能だった、ということも十分に考えられる。
自分達が持つ常識と照らし合わせているのだろう。
随分と時間をかけ、ようやく彼らも話し出した。
「……もーすごすぎて、なんも分かんねぇ……」
「……なんでしょう……私が知る常識の削られる音が聞こえます……」
「……どうしてこうも実力差があるのでしょうか……」
「……このままトーヤに訓練してもらえれば、Aも余裕じゃないだろうか……」
意気消沈の4人だが、実戦経験は比較にならないほど俺よりも上だ。
それに基礎修練を積んできている彼らは、応用的なものを学べばすぐにでも強くなれるのは目に見えている。
話した内容が今後の成長に繋がれば、少しはお礼になるかもしれない。
そう思って、俺は彼らに出し惜しむことはしなかった。
4対1の訓練もそうだ。
あれは何も戦い方を試したかっただけじゃない。
彼らが必要以上に力を使いすぎていると伝えたかった。
無駄なものを削ぎ落としていけば、今よりも遥かな高みへ行ける。
それを俺は証明し、彼らに学んでもらいたかった。
恐らくは簡単に理解できないだろう。
俺だってそうだったし、それを学べるのかは彼ら次第になる。
でも、これから先、何ヶ月かかろうとも、彼らなら体得できる。
そう俺には思えたから、あえて力量差を見せつけるように示した。
こんなこと、普通の奴には教えない方がいいに決まってる。
魔法の常識のみならず、これらは世界の常識を崩壊させうる情報になる。
彼らがそれを無闇に口外しないことは、これまでの時間で十分に理解していたし、人となりを含む人物像もしっかりと知ることができた。
彼らは善人だ。
それも馬鹿がつくほどのお人よしだ。
俺が空人であるかは出会いの切欠にすぎない。
だからこそ、俺は様々な知識を話した。
たった1時間という短いものだったけど、きっと伝わったはずだ。
そして言葉では伝えなかったが、学べるように力を見せ続けた。
なるべく理解しやすく、丁寧に。
彼らが笑って、冒険者を続けられるように。
ほんの少しだけでもその手伝いができるように。
彼らは研鑽を積み重ね、俺なんかに習わずとも自らの力でランクAに昇格する。
俺は彼らの背中を軽く押しただけ。
これまで話した内容をどうするかは彼ら次第だ。
理解できず無駄に終わることだってあるが、彼らには当てはまらないだろう。
彼らはきっと、今よりも遙かに高名な冒険者になれる。
その姿を見た子供達が憧れ、彼らを目指すような存在に。
そんな彼らの手伝いができただけで、素直に嬉しく思えるんだよな。
* *
辺りは徐々に暗闇に包まれる。
夕食をご馳走になりながら、俺はこの世界に必要となる多くの知識を学んだ。
常識だけじゃなく冒険者としての知識も、彼らは出し惜しまずに話してくれた。
一通り話し終えると、フランツが思い出したように尋ねる。
その言葉に、俺も細かく話していなかったことに気がついた。
「……そういや、トーヤのステータスってどんだけ高いんだ?」
色々と優先するべきことがあったからだろうか。
それとも俺に余裕を持つだけの心がなかったからか。
もっと早く話しておけばよかったと思ったが、どうやらそれは一般的には良くないことのようだ。
「確かに僕も興味は尽きませんが、そういった話はタブーですよ、フランツさん」
「まぁ、いいじゃないか。トーヤに不利益になるようなことはできないんだし。
14年も見て学び、研鑽を続けた男の技量ってのに俺も興味があるな」
「スキルも含めて話そうと思っていたことなので構いませんよ。
でも伝え方が分からないので、書いてあるまま話しますね。
何か盗賊戦で役に立つことがあるかもしれませんし」
そう言って、俺は表示されてある通りに伝えた。
******* *******
トーヤ・ヤガミ Lv.1
HP15
MP10
攻撃3
防御3
魔力3
技量15
<スキル>
剣術Ⅲ 体術Ⅲ 危険察知Ⅲ 魔力感知 MP自然回復 習得速度上昇
鑑定 インベントリ 言語理解
******* *******
ここまで話すと、俺は彼らに視線を戻した。
どうやらその内容には、彼らを凍りつかせるのに十分なものが含まれていたらしい。