戦闘向きじゃない
拠点に戻ってからも元気なブランシェは、フラヴィと遊んでいた。
仲がいいふたりの姿に、やはり友達ではなく姉妹のようだと俺には見えた。
これはふたりにとってもいい傾向だ。
修練もお互いを意識しながらするようになるかもしれない。
互いが互いを護りあう強さを手にするのが理想だったが、正直なところフラヴィには少し荷が重いように思えてきた。
これだけ身体能力に差が開くと戦闘に参加させていいのか悩んでしまう。
ここにきてピングイーン属が戦闘向きじゃないことを改めさせられていた。
しかし、動き自体は悪くない。
その素早さから敵を翻弄してその隙を突く。
そこをブランシェが攻撃、といった戦い方になるか。
これだと戦闘にかなりの制限がかかるだろうが、ある意味ではフラヴィの方が魔物よりも対人戦の方が合っているかもしれない。
相手を倒すことではなく、相手を制する戦い方を覚えさせたいフラヴィには、魔物と戦うことよりも対人戦のノウハウを学ばせるといいんだろうか。
人間は隙ができやすい。
ましてや盗賊みたな連中なら、それほど強烈な一撃を与える必要もない。
命を奪わずに相手を制することは難しいが、それでも学ばせたいと俺は思う。
そういった限定的な状況なら、この子も戦闘に向かないとは言えないだろう。
そんな近い未来のことを、俺は漠然と希望を込めて考えている時だった。
「わふっわふっ」
「きゅっきゅ、きゅう」
「わふぅ」
「きゅっ」
なにやら楽しげに会話をしているようだが、残念なことに俺には分からない。
どこか寂しく思いながらその姿から視線を外し、いつものように周囲確認するために気配を張りめぐらせようとした瞬間、鋭い気配を感じ取り、勢いよく視線を戻した。
楽しげに話をしているフラヴィの右手が煌いていることに驚愕する。
「ふ、フラヴィ! 待った! そのまま動くな!」
「きゅう!?」
初めての命令口調にフラヴィは軽く飛び跳ねた。
驚かせたことに悪く思うが、正直なところ俺はそれどころではない。
……なんてことだ。
あれは間違いなく魔力なんかじゃない。
まさか孵化させた時の影響がここまで色濃く出るとは、想定してなかった。
思いつきで行動をすると、本当にろくなことにならないな。
「……ごめんな、フラヴィ。
大きい声を上げてびっくりしたよな」
「きゅぅぅ」
ふたりに近寄り、光る右手を確認しながら俺は言葉にした。
「フラヴィ、その右手でそこにある木を優しくさわってみるんだ」
「きゅう?」
首をかしげて目をぱちくりする姿はとても可愛いが、この子が開花させてしまった力に俺は冷や汗が止まらなかった。
フラヴィは言われるまま、すぐ後ろに生えている木を右手で静かにふれる。
同時にさわった場所から幹をえぐり取り、その衝撃は止まらず後方3メートル先にある立派な木の幹を吹き飛ばしてなぎ倒した。
案の定フラヴィは盛大に飛び跳ねて驚き、俺に抱きついて強く振えたが、同じくブランシェも俺の後ろに隠れ、同じように怯える瞳で震えていた。




