すごく怖かったよ
大きめの鶏と思われる魔物が横たわり、首根っこに噛みついたままこちらを見て瞳を輝かせているこの子を褒めていいのか、それとも怒っていいのか。
俺はわからず、フラヴィを左手に抱えたまま呆然と立ちすくんでいた。
まさか1メートル級のデカい鶏が魔物として林を歩いていることにも驚きだが、問題はそんなことではない。
光の粒子となって魔物が消えたのを確認し、俺はしっかりとその話を始めた。
「……ブランシェが強いのはよくわかった。
つつく攻撃も蹴り飛ばそうとする脚もよけていたのはすごいことだ。
でも真っ直ぐ敵に向かうのはとても危険な行動で、正直褒められない。
その戦い方を安定させるには、相手を圧倒する速度と予期せぬ事態にも対応できるように別の方向へ瞬時に移動させられる強靭な脚力と判断力が必要になるんだ。
今はまだ、もっとしっかり敵を見て安全に行動しないと大怪我じゃ済まないぞ」
「……わぅ……」
ブランシェの傍でしゃがみ、優しく頭に触れながら話を続けた。
「……ブランシェが敵に突っ込んだ時、俺はすごく怖かったよ。
まだまだ魔物をひとりで任せられるくらい強くはないんだ。
ブランシェに大怪我をさせたら、ブランシェの母さんに申し訳ないんだよ」
「……くぅぅん」
しょんぼりしている子を、笑顔でなでながら言葉にする。
「でも、ひとりで魔物を倒せたことはすごかったぞ。
ブランシェが強いこともしっかりとわかったよ。
次はもう少しだけ冷静に、俺の言葉を聞いてから行動して欲しいな」
「わふっ」
幼くとも魔物なんだ。
フラヴィと同じでしっかりと話を聞いてくれる。
正直あんなことはもう二度とごめんだが、これもいい勉強としてこの子の身になればそれで十分だ。
……とはいえ、今回はかなりひやひやさせられたが。
まさかブランシェがこれほどまで好戦的だとは思ってなかった。
いや、あの母親の子なのだと改めて思い知らされた、という方が正しいか。
しかし、これは勇猛果敢ではない。
その幼さから周りが見えていなかった。
その理由も、話を聞いていた時のブランシェの様子から痛いほど伝わってきた。
この子は俺に、自分が役に立つことを教えたかったんだ。
力の誇示ではなく、俺の力になりたいんだと伝えたかったんだ。
魔物を倒せはしたが、それは結果論だ。
ブランシェよりも強い敵だろうと、この子は周りを見ずに突っ込んでいた。
そういった危険性を俺が強く感じ取ったのも間違いじゃない。
今回の件でしっかりと学んでくれるならそれで十分だが、しばらくは気をつけないとかなり危なっかしい気がしてきた。
ふたりがこうも違う性格だと考えなかった俺がしっかりしないといけない。
これも親としての責任になるんだろうが、それでも目視した瞬間に飛び出すとは考えていなかったのも事実だ。
この子はかなり血の気が多く、無鉄砲な性格なのかもしれない。
まさかこういった意味で託されたんだろうか、とすら思えてしまう。
しかし、いいところもしっかりと今回の戦闘で見えた。
生まれたばかりでフラヴィよりも幼いはずなのに、ありえないほど強い。
あのブランディーヌの娘だしそれも納得ではあるが、この幼さでこれだけの強さを見せるとなれば最前線での活躍もできるようになるだろう。
当然、色々と粗が見えているし、このままじゃ危険極まりないが。
フラヴィの場合、突進くらいしか攻撃ができないと思えるし、やはりこの子は戦闘向きではないことが、その体系からもはっきりと出ている。
この数日でブランシェはフラヴィの身長を超えてしまった。
魔物の子は成長が早いと学んだが、まさかこうも早くフラヴィよりも大きくなるとは思っていなかったことだ。
いや、それも母親の大きさを考えれば、ある程度は予測していたが。
ともかく無事に済んでホッとした俺は地面に落ちている羽と爪をインベントリに入れ、ふたりを連れて拠点へと戻った。




