穏やかな湖畔で
地面に座りながら周囲を警戒していた俺の足に、温かなぬくもりを感じた。
「わふわふ」
「結局フラヴィはダウンしたままで、俺のところにきたのか」
遊んで欲しいのだろう。
きらきらとした子犬の目は中々な衝撃を受ける。
遊んであげようと考えたが、底なし体力を持つこの子には何がいいのか。
「鬼ごっこはずっとしてたし、木の棒でも拾ってくるか?」
「わふっわふっ」
瞳の輝きが増した。
これは、"何それ楽しそう"って喜びからだろうか。
太めの枝を拾い、それを見せながら言葉にした。
「この枝を投げるから、それを取ってくる遊びだ」
「わふっ」
「と、その前に」
立ち上がり、ぐったりとしたフラヴィを抱きかかえる。
すでに意識が保てないほど疲れきっているようだ。
いったいどれだけ頑張ってたのやら。
もとにいた場所に戻って座りなおす。
あぐらの上に寝かせ、大人しく待っていたブランシェの頭を優しくなでる。
この子はフラヴィと比べれば、かなり活発で体力も底なしに思えるほど多いが、この子もフラヴィと同じで言うことをしっかりと聞いてくれる子だ。
これが人の子なら、だだをこねたりわがままを押し通したりと大変なんだろうけど、やはり魔物は人間の子供よりも知能が高いと思える。
そうでもなければ生きていけないのかもしれない。
厳しい世界に生きているのだから、自然と知能も高くなければ生き残れない、ということなのだろうか。
「よし、それじゃあ遊ぼうか」
「わふっ!」
軽めに放物線を描いて放り投げると、地面に落ちる前にキャッチしてしまった。
戻ってきたブランシェは瞳をこれでもかと煌かせ、ほめてほめてと言っている。
……実際には言葉として理解できないが、それ以外ないだろうな、この瞳は。
優しくも強めになでながら褒めてあげると、凄く嬉しそうに目を細めた。
「すごいな、ブランシェ。
まさか空中でキャッチするとは思ってなかった」
「わふぅ」
「でも口で咥える時は怪我をしないように。
もし怪我をしたら必ず言うんだぞ。
すぐに治してあげるからな」
「わふっ」
この日から、"棒遊び"が毎日の日課となる。
どうやら単純なものでも本人はかなり楽しいらしい。
誰かがかまってあげれば何でも楽しく思えるのかもしれない。
飽きたら飽きたで違った遊びをしてあげるだけだな。
ついでだし、棒遊び用の枝と木刀製作用にハンディクラフトスキルも上げるか。
いや、枝である必要もないか。
いっそフリスビーみたいな円盤型のものを作ってみるか。
しっかりと角を丸めれば口の中を傷つけることもない。
散歩をしながら拠点に戻って遊んであげれば、この子も満足するだろう。
世界を旅するための予行練習にもなるだろうし、魔物と遭遇すれば戦いの空気を学ばせることもできるだろう。
しかしあの日以降、魔物の気配を感じられないほど穏やかになっていた。
これは恐らくブランディーヌの影響なんだろうな。
あれだけ強烈な気配を放ち続けてこの辺りまで走ったんだ。
周囲の動物だけじゃなく、魔物だろうと逃げ出すよな。
ブランシェが魔物を見てフラヴィのようにならないかは心配だが、あの母親から産まれた子が臆病だとも思えないし、何よりもフラヴィが魔物の中でも突出しているとパティは話していた。
まず問題はないだろう。
そう俺は、なんら疑うこともなく楽観的に考えていた。
周囲を探ることを優先させすぎて見えていなかったのかもしれないな。
いや、ある意味ではあの母親の子なんだと思い知ったと言えるかもしれないが。
焦りながらこの子の行動を制限させようと注意を促すことになるのは、ブランシェが魔物と初めて遭遇した直後の話になる。