お腹は枕
わふわふとフラヴィのお腹に乗っかる楽しげなブランシェは、地面にひっくり返りながらぐったりとする子を枕に瞳を大きく輝かせた。
……必死な目をしてるな、フラヴィは。
かなり頑張っていたのも頷ける動きだったし、それも当然か。
とても楽しそうな姿から嫌々ではないことはわかるんだが、少し無理をしすぎている傾向を感じた。
もしかして、お姉さんとしての意地みたいなものからきてるんだろうか。
……いや、この子はそんな子じゃないな。
ブランシェとの遊びはとても楽しいけど、体力が……ってところか。
優しい気持ちからこの子を楽しませたいとか考えて、無理をしていたのか。
でもフラヴィの動き自体は全体的に悪くなかった。
随分とスタミナも伸びつつあるし、中々の攻防を見せていた。
フラヴィの昼寝をする回数もここ最近は減っている。
それはそれで寂しい限りではあるんだが……。
このままブランシェと遊んでるだけでも体力はついていくだろう。
あとは技術と知識を少しずつ学ばせれば、問題なく世界を歩けるようになる。
これだけのスタミナを持つなら、旅に出ながらでも鍛えられるかもしれない。
何よりもあの事件以降、俺はこの場所に留まっていいのかわからずにいる。
あれから随分と周囲の調査に出たが、それらしき敵と遭遇することはなかった。
あの日、ブランディーヌが戦っていた場所も捜索したが、氷塊のみで敵と思われる存在もいなかったように思えた。
改めて彼女の凄まじさを感じさせる氷の世界を歩きながら、これほどまで力を発現させなければ倒せなかった敵が存在することに冷や汗をかいたのは、当分忘れられないだろう。
何よりも気配を感じさせない可能性を持つ存在だ。
それが特殊な能力なのか、それとも俺自身に問題があるのかはわからないが、俺にできることをこの数日間続けていた。
ふたりが遊んでいる時は、なるべく気配察知と魔力感知の訓練に時間を割いているが、恐らく今のままでは識別することは難しいだろう。
魔力感知の訓練は正直なところ手探りでしかないが。
同時進行で体力を回復させるヒールや、毒状態を治すキュアの修練を続ける。
使用回数でスキルが強化されるのか、それとも回復させた総量や状態異常をしっかりと治さなければ意味がないのかは現在の情況ではわからないが、俺の予想では使い続ければ確実に次の段階へ上がると考えている。
そうでなければ、剣術や体術などがⅢなどと表記はしないはず。
これはまず間違いないと、どこか俺は確信していた。
俺が持つ"MP自然回復"スキルのお蔭で、本来は睡眠を取らなければ回復しないMPを文字通り自然に回復できる。
これは魔法やスキルの訓練には非常に使い勝手のいいスキルだ。
睡眠1時間で全回復と言われているものを寝ずに回復できるこのスキルもまた、空人特有のユニークスキルなのかもしれない。
そして"習得速度上昇"スキル。
何に対して上昇するのかは書かれていないが、もし仮にスキルの上昇を手助けするものであるのなら、この世界の住人よりも遙かに早く英数字ランクに昇格する可能性が高い。
回復系魔法はとても有能なスキルになるし、中でも毒はかなり厄介だ。
スライムやらカエルやらヘビやら、危険な魔物や動物も数多くいるらしい。
当然、解毒剤や回復薬も持っているが、スキルを覚えない理由にはならない。
特に気配察知はさらに効果を高めないと危険だ。
現在のランクで敵を感知できないなら、その上を目指す。
俺もこの力を文字通りの達人級まで高めているわけじゃないんだ。
この世界ではそう呼ばれていたとしても、効果を見せないんじゃ意味がない。
気配察知ⅢをⅣに。
可能であれば魔力感知をⅢまで上げる。
それでも感知できなければ、それに変わる新しいスキルを体得する。
これは、現状での最優先事項だ。
むしろ俺がそれを体得できるかどうかで安全に世界を歩けるかが決まる。
そんな状況に現在ではなっていた。
『テネブルに気をつけよ』
ブランディーヌはそう言っていたが、それが何かは聞いていないし、それを倒したとも彼女の言葉としては聞くことはなかった。
だが恐らくは倒したのだろうとは思っている。
そうでもなければ、あんなに穏やかに逝くこともなかったはずだ。
何よりも愛娘であるブランシェが傍にいたんだ。
厄介ではあったが、何とか倒せた。
そんなところだろうかと俺は思っていた。