挨拶から始めよう
ある程度学んだら、一緒にこの世界を旅しよう。
俺と、フラヴィと、ブランシェの3人で。
いや、俺以外は一応魔物になるから、"2匹"になるか。
特にブランシェは相当強くなりそうだし、あの大きさまで成長するとなると町に入れてもらえるんだろうか。
ああいった種族は長命かもしれないし、成長も遅いかもしれないな。
だとすると、気にするような問題にはならないだろうか。
……それにしても、自然と"3人"って言葉が頭に出てきたんだよな。
ブランシェもフラヴィも、なんだか魔物って感じがしないんだよな。
どうせなら、フラヴィと姉妹みたいに仲良くなってもらえたらいいな。
そんなことを考えながら優しく撫でていると、こちらを見ながら嬉しそうにくるくるとフラヴィが出すような音を鳴らした。
甘えから出ているのはわかるが、狼がこういった音を出すのかはわからない。
フラヴィと同じで、本来の動物とは別の進化をしてるのかもしれないな。
そもそも魔物だし俺の常識では理解できないことかもしれないけど。
魔物ってのは本当に不思議な存在だな。
人とは敵対してる奴らなのに、小さな頃から育てればしっかりと懐きそうだ。
フラヴィは卵からだし、この子は生まれたばかりからって違いはあるけど。
これなら動物を飼ったことのない俺でも、立派に育てられるかもしれないな。
どうせなら、どこに出しても恥ずかしくないように教育してみるか。
憶えてる範囲で童話とか、小説とかの話をしてあげるのもいいかもしれない。
このちみっちゃい子達が何に興味を持って、どんな存在になって何を目指すのかは分からないけど、自由にのびのびと個性を伸ばしてあげられたらいいと思う。
ブランシェには、いずれ俺がいなくなってもこの世界で生きていけるように。
何不自由することなく、自由に世界を歩けるように。
しばらくは、この泉周辺で育成してみるか。
確かめたいこともあるし、湖畔なら見通しもいい。
食料だって十分に採取できるだろう。
ふたりが大きくなったら町に出てみようか。
フラヴィの時みたいに震えるかもしれないけど。
もしそうなっても、少しずつでいいから人に慣れていこうな。
流石にこの状態じゃ、世界を歩くにはまだ幼すぎる。
最低でも自衛できるだけの強さまで鍛える必要がある。
やるべきこと、教えるべきことはたくさんあるな。
……でも。
まずは気持ちを新たに挨拶から始めようと思えたんだ。
これはきっと、最初の教育になるのかもしれないな。
「これからよろしくな、ブランシェ」
「わんっ」
わんこにしか思えなくなった狼魔物の子供は、一心不乱にお粥をがっついた。