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噂に聞く場所
それは、夢か現か、それとも幻か。
眼を開けるとそこは草原だった。
穏やかな風が優しく吹き抜ける見渡す限りの草原。
色とりどりの花々が咲き乱れ、心地良く我の鼻をくすぐった。
我は思う。
あぁ、ここが噂に聞く場所なのか、と。
だとしたら悪い世界ではない。
もっとこう、氷に包まれた場所だと我は思っていたくらいだ。
ここでなら最愛の娘が来るのを、いくらでも待つ事が出来るだろう。
その場に座り込みながら、我は考える。
あの歪な存在は何だったのだろうか、と。
いや、我にはもうどうする事も出来ない。
だが未来を繋げた事だけは確かだ。
それだけでいい。
ヒトの子にあれだけの言葉で伝わったのかは分からない。
しかし、我にはもう気を付けてくれと願う事しか出来ない。
後は未来を担う若者達に任せ、我はここで最愛の娘を待つとしよう。
たったの千と数百年程度だ。
そう先の話でもあるまい。
……それにしても。
この場所は随分と穏やかだな。
久々にゆっくりと眠りに就けそうだ。