いい加減にしろよ
向こうには向こうの言い分があると知った上で、俺は強い苛立ちを募らせた。
現状を理解するつもりがないなら話は別だ。
「……フラヴィの言葉も聞く耳もたずか。
現状を知ってもなお威嚇してくるんだな。
さすがにイラつくな、その態度がこうも続くと……。
……うちの子を、そのデカい図体で威嚇して怖がらせるなよ――」
怒りに任せて威圧を強く放つ。
やつよりも強力に、やつよりも明確な敵意を込めて。
うちの子を威嚇してびびらせたんだ。
覚悟はできてんだろうな。
わからずやの犬っころに低く重々しい声色で言葉にした。
「――いい加減に現状を悟れ。
お前には取れる選択が少ないのも理解しているはずだ。
正直なところ、俺にとってはどうでもいいことなんだよ。
俺達の近くにお前が来たから様子を見に寄っただけだしな。
どうするかはお前が選べばいいし、俺達に被害が出ないならどうでもいい。
……だが頭のいいお前なら、何が正しい道なのかはわかってるはずだ。
それを選ぶか選ばないかもお前の自由だし、それでも言葉を返す気がないんなら俺達は日常に戻るだけだ。あとは勝手にすればいい」
……まだ話す気にならないのか?
それともお前はそこまで石頭なのか?
その理解できない自尊心ですべてを終わらせる気か?
「……いい加減にしろよ。
その姿勢を崩さないつもりなら、俺達はもう戻るぞ?」
しばらく時間を与えたが、やはりそう簡単に人は信じないってことか。
なら、俺達には関係ないことと割り切って戻るだけだ。
それでいいんだな、お前は。
……本当に、それで。
「…………そうか、わかった。
あとは好きにすればいい。
プライドに生きることも俺は否定はしない。
……この状況では理解なんてできないが……って、なんだ、フラヴィ?」
「きゅうきゅう! きゅう! きゅぅうぅ!」
腕から乗り出すように、大狼へ何かを訴えているように見える。
……いや、そうか。
そうだったんだな。
フラヴィも気がついていたんだな。
だからそんなにも必死になって、恐ろしい相手と話をしていたんだな。
「…………きゅう……きゅぅうぅうぅ…………」
とても悲しげな声色が林に響く。
しばらくの時間を挟み、ため息をつきながら俺は言葉にした。
「…………行こう、フラヴィ。
どうやら頭が岩石のように固まってるらしい」
「……きゅぅぅ……」
そんな泣きそうな声を出さなくていいんだ。
フラヴィは精一杯頑張ったと俺にだって伝わったよ。
本当に優しい子だな、フラヴィは。
今回はダメだったけど、その気持ちはなくさないで欲しいよ。
踵を返そうと足に力を込めた瞬間、力強い女性の声が周囲に響いた。
「…………ヒトの子よ。
強者と見込んで、頼みがある」
その言葉に嬉しく思ったのは俺ではなく、フラヴィだった。




