強烈な気配
今度のものは、あの女性の時とは明らかに違う、かなり厄介なものだった。
フラヴィも同時に気がついたほどの濃密な気配に、全身の毛が逆立っていた。
木々がまるで震えるようにざわつく。
「……距離は、まだ相当遠いな。
300メートル以上は離れてるのか?」
あまりに放たれている気配が強く、通常よりも倍を超える距離を認識した。
それだけ離れていてもはっきりと感じるほどの強烈な気配。
凄まじい魔物であることは疑いようもない。
これを人が放ちながら歩いていたら、それこそ危険人物だ。
まず間違いなく敵対者として襲いかかってくるだろう。
……徐々にこちらへ向かっているな。
この場所から若干ずれてるようにも思える。
これは湖まで水を飲みに来ようとしているのか?
どちらにしても、このままでは確実にこの辺りまで来るだろう。
厄介なトラブルなのは間違いない。
だが、このまま放置するわけにもいかない。
さてどうするかと悩んだところで、遭遇するのは時間の問題だ。
ここで待ち続け、襲われて拠点を潰されても困る。
とはいえ、今度の気配は相当強い相手だ。
フラヴィを抱えた状態で戦えるのかもわからない。
いや、それでも必要なら戦わなければならない。
そういった強者が襲いかかってくる可能性がある世界で、危険だからと避け続けるにも限界がある。
フラヴィに視線を向けると、不安気な様子でこちらを見上げていた。
小さく震える子の頭を優しくなでながら落ち着かせ、どうするかを考える。
一旦この場を離れるべきか?
いや、そうしたところで結論は変わらない。
大きく動けばこちらを察して襲いかかってくる可能性もある。
だからといって、この場には長く留まれない。
可能ならすぐにでも行動するべきだ。
少ない時間で散々悩んでいると、気配が少し落ち着いたように思えた。
先ほどの濃密なものは、危険というよりも鬼気迫る感じだった。
……だがこの気配は、まるで……。
「……これは……。
まさか弱っているのか?
だとすると、相当まずい状況だな……。
何かと戦ってたんなら、色々と問題が出てくるんだが……」
木々がざわつくほどの気配から、かなりの大物なのは十分理解できる。
そんな存在が弱るほど厄介で危険な相手がいたということになるが、問題はそこだけではなく、今感じている存在とは別の気配に気づけないことだ。
もし仮に強大な何ものかと敵対する存在が対峙していた場合、これほどの強さをここからでも感じ取れるだけの強者を弱らせる敵の気配に俺が気づかなかったことそのものが、非常に厄介で危険なことになる。