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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第一章 はじまりは突然に
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敵わないわけだ

 落胆するように、しかしどこか納得した様子で彼らは話す。


 あれだけの力を一部でも見せたんだ。

 さすがに思うところもあるだろう。


「……はぁ。強い強いと感じていたが、まさかこれほどとは思ってなかった」

「これはもう戦力というより、僕達が付いていっていいのかって話ですね……」

「ライナーさんの矢まで弾き落としてましたし、とても並の技量ではそんなことできませんよ……」

「弓矢はいい訓練になりました。流石に経験したことがありませんからね」

「……そういうレベルじゃないと思うんだが……」

「みなさん、ありがとうございました。とても助かりました」

「いや、俺達に足りないものも見えた気がするし、こちらこそだ。

 しかし、ゴブリンを一瞬で切り伏せたのも力の一端にすぎなかったんだな……」

「あれはわりと色んな検証をしていたので、倒すことだけを目的としてはいなかったんですよ」


 面白いように目が点になる3人。

 ハインツは背後にいるので流石に見えないが、同じ顔をしていそうだな。

 彼が3人と合流したところで、俺はあの時のことを彼らに話した。


 石を後頭部に直撃させたことによるゴブリンの反応。

 移動速度を抑えつつも、草の音がどこから敵の耳に届くのか。

 それが聞こえてからの反応速度や武器を構えるまでの時間。

 斬撃によるダメージ推量と、仲間を切られたことによる行動。


 若干重いと感じる武器をどこまで上手く扱えるのか。

 剣に込める力の量と、その後に感じる疲労感。

 この世界と前にいた頃との体力や技量の差。


「他にもありますけど、ざっと言葉にするならこんなところですかね。

 あとは俺自身が生き物の命を奪えるのかを問題視していました。

 国元では俺を含め、多くの人が命を奪うことに強い嫌悪感を感じるんです。

 でもこの世界で生きていくには魔物や、時には盗賊をも倒さないといけない。

 だから俺はあの時、ひとりで戦わせて下さいと提案したんですよ」

「……なるほどな。覚悟が必要って話に繋がるのか。

 木の陰で何かを考えていたのもこれで納得できた気がする。

 やっぱり俺達の世界とは随分と勝手が違うようだな」

「ですが、私としてはとても共感できます。

 命とは本来そうあるべきでしょうから」


 エックハルトはどこか寂しげに答えた。

 聖職者である神官が、この世界ではどういった扱いになるのかは分からない。

 魔物は悪しきもので殲滅するべき、なんて極端な考えを持つのかもしれないが。


「……にしてもお前、どんだけ経験積んでんだよ。

 俺らはガキの頃からの訓練を合わせれば、これでも6、7年は鍛えてんだぞ?」


 呆れたように話すフランツ。

 他の3人も似たり寄ったりの顔をしていた。


「俺が修練を始めたのは12年前。

 4歳からの見取り稽古を入れるなら、今年で14年目になりますね」

「……じゅ、14年……ですか、トーヤさん……」

「……おいおい……武術漬けの毎日だったのかよ……」

「そんなことはありません。毎日のんびりと自由に過ごしていましたよ。

 修練は心身を鍛えるために必要だと父に言われ、日課として続けていただけですし、勉強の方も疎かにしたつもりはありません。

 5歳から習わせる武術も国元にはあるので、それほど珍しくもないんですよ。

 皆伝となる最後の奥義を体得できずに飛ばされたので、心残りではありますが」


 その言葉にぴたりと動きが止まる4人。

 息が合ってて仲がいいなとか思ってると、フランツは訊ねた。


「…………最後? 最後っつったか?

 ……じゃ、じゃあ、なにか? いくつかは奥義を体得したって意味なのか?」

「え? えぇ、まぁそうですね」


 ぽかんと口を開ける4人。


 とはいえ、奥義はとても使えるようなシロモノじゃない。

 だからこそ、そんな仰々しい名称で分類されているわけなんだが。

 あんな技を人間相手に使うことは絶対にないだろうな。


「……そりゃあ、俺達じゃ敵わないわけだな……」

「……武術の奥義を体得してるのならば、あの強さも当然なのかもしれませんね」

「……なんだかとても納得できた気がします。

 だから僕の弓も軽々と弾き落とされていたんですね……」


 ライナーはそう話すが、あれはかなり危なかった。

 さすがにあんなものを斬り落とすなんて経験はない。

 一歩間違えば大変なことになっていたのは目に見えている。


 実戦であんなものが飛んでくれば、まず避ける以外の選択はしないだろう。

 精神的に相手を威圧するなら話は変わってくるが。


 そういった意味でも、彼らとの訓練はとても勉強になった。

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