表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第五章 誰がために
119/700

さわるか、さわられるか

 体をかすめるようにフラヴィが真横を通る。

 俺は徐々に楽しく思えるほどの速度まで成長を見せたこの子と遊んでいた。


「お、今のはいい感じだったぞ、フラヴィ」

「きゅっきゅ! きゅうぅぅ!」

「いいぞ、フラヴィ。

 体の使い方が段々上手になってきた」


 これは、いわゆる鬼ごっこだ。

 ……至近距離から動いていないが、まぁそんなもんだろ。


 俺達はこの数日、さわるか、さわられるかの遊びに時間を費やしていた。



 あの日、彼女の想いを受け取った男性は、問題なく目覚めた。

 そして詳細を話したあと、彼はお礼を彼女に伝え、家路へと向かった。


 彼の抱えた病気は何人もの医者に匙を投げられ、余命まで宣告されていた。

 それが治ったことに喜ぶのか心配をしたが、案の定、俺の予想通りになった。


「……オーギュスト、泣いてたぞ。

 ……元気になったら謝っとけよな?」


 空を見上げ、俺は小さく呟く。

 大の男がお礼を言いながらも、あんな悲しそうに涙したんだ。


 まったく。

 やっぱり俺が思っていた通りになったじゃないか。

 あのまま薬だけあいつの下に置いて消えていたら、絶対飲まなかったぞ。

 いや、意識のないオーギュストに俺が飲ませなければ、結果は同じか。


「きゅぅうう!」

「っと」

「きゅう!?」


 珍しく飛びついてきたフラヴィを気配だけでかわし、背後から受け止めた。

 優しく胸に抱き、頭をなでながらこの子の成長を俺は喜んだ。


「随分と動きが良くなってきたぞ、フラヴィ」

「きゅぅぅ……」

「そう残念がることもない。

 まだまだ体を鍛え始めたばかりなんだ。

 続ければ、これからもっともっと強くなれるよ」

「きゅう!」


 元気に答えるフラヴィに俺は微笑んだ。


 最近、この子の言っていることが、少しだけわかるようになってきた。

 言葉としてはさすがにわからないが、この子はやはり動物と違う反応を見せる。


 そのひとつが会話の受け答えだ。

 これは以前からわかっていたが、この子は俺の言葉にしっかりと返してくれる。

 こんなこと普通の動物はできないし、訓練したところで不可能だろう。


 そういった意味ではフラヴィが魔物なんだと再認識させられていたが、俺にとってもこれはいいことだと思っている。

 修練も順調に進み、道場のちびっこ達ではもう勝てない身体能力を見せていた。

 泉に着いて5日目なんだが、この子の中でも何かを学んだんだろう。

 とても真剣に取り組む姿に、俺は嬉しさが込み上げていた。


「まだ動けるって顔をしてるぞ。

 でもそろそろご飯の時間だから、今は終わりにしような?」

「きゅぅ……」


 フラヴィは体を動かすのが好きみたいだ。

 運動はストレスの発散にもなるっていうし、鍛えるにも丁度いいだろう。

 もしかしたら、あの日のもやもやをこの子なりに振り払いたいのかもしれない。

 そのお蔭でこの子が持つ潜在能力を垣間見た気がするし、無理にならない程度でこれからも続けていこうと思う。


 まさかとは思うが、ディートリヒ達よりも強くなったりしてな。

 ここ数日でそんなことを思わせるようにフラヴィは成長していた。


 それにこの子は学習能力もかなり高い。

 一度失敗したことをしっかりと学び、次かその次で確実に対応してくる。

 これは相当鍛えがいがありそうだと思わず笑みがこぼれた。


 フラヴィの成長具合から見て、世界を歩けるまでそれほどかからない。

 これなら迷宮都市に向かった彼らと再会する日も近いかもしれないな。


 彼らの協力を得てダンジョン攻略を目指すのもひとつの手だが、気配察知を覚えたばかりで教える師もいない彼らはそれほど上達が見込めないことも考えられる。

 こればかりは本人の努力と感覚次第としか言いようがないが。


「それじゃあ、ご飯にしようか、フラ――」


 瞬間、俺の全身を貫くような、強烈な気配が走り抜けた。

 そのまま凍りつくように、俺はその場に立ちすくんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ