冷静になれば
少しだけ時間を挟み、考える時間と冷静さを彼女に持たせた。
瞳の色が落ち着きを取り戻したと思えるころ、俺は彼女に訊ねた。
「少しは落ち着いて話をする気になったか?」
「……はい。ありがとうございます。
それと考えが足りない言動をしてしまい、申しわけありません」
「そこに気がついてもらえただけで十分だ。
あんたの気持ちは本物だし、それを否定したりはしない。
ただ少し必死すぎたと、俺には思えたよ。
冷静になれば、まだ他にも方法があるかもしれないだろ?」
「そう……ですね……。
どうにも"救わなければ"という気持ちが、前面に出すぎてしまったようです」
あぁ、それもわかってたよ。
だから否定したんだ、俺は。
そんな結果は俺自身が望んでないからな。
何よりもフラヴィに自己犠牲の瞬間を見せられない。
色んな意味で、あんたの行動を否定せざるをえなかったんだよ。
でも、これでようやく話し合いができそうで安心した。
「まずはあんたの種族と、その特性について詳しく話してもらえないか?」
「はい、わかりました」
落ち着きを取り戻した女性は、静かに語り始める。
彼女達の種族は、他者の魔力と自身のを合わせることで治療薬を作り出せる。
しかし、その代償はあまりにも大きいと言わざるをえない。
薬を作れば自身の体を維持できず、魔力を帯びた植物になってしまうらしい。
それはマンドレイクと人から呼ばれる植物で、非常に効能の高い霊薬を作るための素材として高額で取引され、発見しだい冒険者に襲われる種族なのだと彼女は悲しげに答えた。
彼女達は倒されるとマンドレイクをドロップすることから、希少な魔物として扱われているようだ。
俺を見て最初に戸惑ったのも、そういった意味を持っていたのを理解できた。
恐らくだがフラヴィを抱えていたのを見て話しかける気になったんだろう。
……それでも相当悩んでいたようにも見えたが。
霊薬とは、秘薬と呼ばれる高性能の薬よりも遙かに希少価値が高く、一説によれば不老長寿の薬と呼ばれるものもあるという。
瀕死状態をも治すことのできる薬は秘薬で、それ以上の効果をもたらす霊薬は、たとえどんなものであっても信じられないほどの高値で取引される。
これは彼女が少ないながらも得た知識になるらしいが、その中でもマンドレイクは特に希少と言われ、魔力を帯びない状態でも莫大な金額で取引されているのだろうと彼女は話した。
誰からの情報で、なんて問いかけは必要ないだろうな。
この世界には本当にロクでもない連中が多いということだ。
「……つまりあんた達の種族は、そんなもののために狩られ続けてるのか……」
「……そう、なりますね……」
話を聞くと、彼女は同胞と呼べる存在と出逢うことは非常に稀だという。
偶然の出会いとも言えるほどの邂逅に、持ち寄った情報を共有することで少ないながらもこれまで生きてこられたようだ。