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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第五章 誰がために
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力のひとつ

 眼前の女性が何を言っているのか、さすがにわからないわけじゃない。

 だが、それでも思わずにはいられないこの状況下で、それを軽々しく承諾できるほど俺も人間ができているわけでもない。


 フラヴィは静かに女性を見つめ続け、大人しくしてくれている。

 驚かないことに嬉しさを感じるも、どうやら内心では視認している存在が何を言ったのか、正確には理解していないんだろうな。

 俺自身、何を意味する発言だったのか一瞬わからなかったくらいだ。

 理解の及ばないことが起きると、こうも判断力が低下するのか。


 さて、どうしたものかと考えたところで、取れる選択は少ない。

 彼女の言葉の真意を探りながら男性を見ると、相当苦しそうな表情をしていた。

 弱々しい気配を感じるが息はあるし、これといった外傷も見当たらない。


 しかし、力を貸して欲しいと言葉にした存在をそのまま信じられるわけもない。

 それが本心から言っているかどうかは俺にだって判断できるが、医者でも薬師でもない俺にいったい何をさせようってんだ。


「大体予想できるが、それでも詳しく話してもらわないと答えられないな」

「……そう、ですよね。

 すみません、ことを焦りすぎました」


 どこか申し訳なさそうに話す女性は、ことの次第を話し始めた。

 男性との出会いや、なぜこんな状況になっているのかを。


 助けを求めたのは、彼を救うために魔力を分けて欲しい、ということらしい。


 まるで懇願するように語る女性へ苛立ちはつのるが、今はいい。

 問題は、俺の魔力を受け取って何をするのか、ということが重要だな。


「そいつは意識を失っているだけなのか?」

「はい。私の力で深く眠らせています。

 あまりにも苦しそうにしていましたし、私にはそういった知識がありませんので、どうしようもなくて……」

「まぁ、それは俺も同じだ。

 だがそれなら救う方法もないように思えるが?」


 医術的なことにうとい俺が、この男性を救えるとも思えない。

 ましてや秘薬と呼ばれるような強力な薬を持っているわけでもない。

 それにたとえ持っていたとしても、実際に下手な治療行為をすれば逆に苦しめることになるかもしれないんだ。


 俺の魔力で人が救えるという意味は、やはりひとつしか考えられない。

 案の定、女性はその薬について顔色を変えずに話し始めた。


「あなたの魔力を分けていただければ、治療薬を作ることができるんです。

 それは私達の種族に伝わる力のひとつなのですが、これを飲めば救えるはず。

 ですが、それには可能な限り多くの魔力を私に譲ってもらう必要があるんです」

「……なるほど、おおよそは理解した」

「どうかお願いです。

 私に魔力を譲っていただけませんか?」


 瞳を閉じ、男性に負担がかからないように頭を下げる女性。

 その姿に若干の違和感と苛立ちを覚える。


 懇願、か。

 だからといって、そう簡単に魔力を渡すわけにはいかない。


 俺がそれを分からないと、こいつは本気で思っているんだろうか。

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