いい場所
フラヴィと一緒に歩く浅い林は、どこか幸せを感じるような気持ちになる。
鼻に届く草の匂いに妙な懐かしさを感じさせるのが不思議に思えた。
この林はとてもいい場所だ。
自然が豊かなことも言えるが、魔物の数が少なく、またその強さもかなり弱い。
極稀に動物のオオカミやクマが出るらしいから安心はできないが、それでもこの周辺は色々と冒険者にとっては都合のいい場所だと思えた。
「クマと言えば鍋を連想するんだが、美味いんだろうか?
滋養強壮にもいいって話を聞いたことがあるし、味にも興味があるな」
「きゅう?」
俺のすぐ横をちょこちょこと歩くフラヴィが見上げながら首をかしげた。
踏んでしまいそうなほど近いが、気配を察している俺なら見ずともよけるくらいはできるので大事には至らないだろうが、それでも気をつけなければならないな。
動物の話をしながら俺達はあの場所に向かっていた。
途中木の実やキノコ、野草や果実をインベントリに回収しつつ足を進める。
あれから一晩泊まらせてもらい、朝食を食べた俺はふたりと別れ、フラヴィの育成のためにフェルザーの湖を再び目指した。
足にすがりつきながら号泣するラーラに『一緒に行きたい』と懇願されて困ったが、食事目的なのがはっきりと伝わったので丁重にお断りをした。
パティには簡単なものから手の込んだものまでそれなりのレシピを渡してある。
あくまでもこの世界に生きる住人の味覚に合わせた洋食になるので、素材を活かしすぎた日本料理はさすがに書いていないのが残念なところだが、細かく書いたあのレシピなら彼女でも時間をかければ作れるだろう。
とても嬉しそうにお礼を言った彼女の笑顔に視線を逸らしてしまったが、そういったことも慣れていかないといけないのかもしれないな。
俺達はふたりに別れを告げ、再び湖畔を目指して浅い森を進んでいる。
今はちょうど3日目の昼過ぎといった頃合だろうか。
食材を手に入れるにもこの場所はかなり良さそうだ。
豊富とまではいかないが、それなりに食べられるものがある。
残念ながらフラヴィは噛むことができないので、そういった意味で俺と同じ食事をするのは難しい。
せめて噛めればと、叶わぬ願いを思わずにはいられない。
そうすれば俺と同じ食事ができるだけじゃなく、この子が食べたいものを作ってあげられるんだが、考えても仕方のないことだと割り切るしかないだろうな。
* *
それと再び遭遇したのは翌朝のことだ。
小鳥のさえずりが心地良く響き、綺麗な日差しが差し込む清々しい朝だった。
気配を感じて視線を向けると、そこには3匹の後姿が目に映った。
まるであの時の光景を思い出すような姿に、思わず苦笑いが出てしまう。
さすがにむき出しの敵意を感じ取ったフラヴィは軽く飛び跳ねて俺の足に隠れ、震えながらもそれらを確認するが、それは今までとは違いが分かるだけのわずかな影響で済んだことに安堵した。
これなら大きな問題にはならないかもしれない。
小さく震えながらも敵へ視線を向けることができているフラヴィの成長を、俺はとても誇らしく思えた。




