少年は駆ける
少年は駆ける。
体勢を低く、目標の最短距離を風のように。
右手に持つのは両刃の剣。
木漏れ日を浴びて光をきらきらと反射する。
制服と黒のスニーカー姿にはとても似つかわしくないものだ。
敵と見定めた3つの人型が眼前に迫る。
石塊が横に並ぶそれらの、左に立つモノの後頭部へと直撃した。
重く鈍い音を立てながら前のめりに倒れ込むのを確認し、少年は加速する。
ようやく現状を理解できたのか。
それとも未だ確認のためか。
人型どもは振り向こうと身を後方へと動かした。
だが遅すぎる。
すでに刃を振り下ろせる距離まで詰めていた。
少年は手にした剣を右肩から左腹部へと振り下ろす。
中央の存在がこちらへと向くまでの僅かな時間。
その刹那とも言える間に、体を横回転させながら右に薙ぐ。
どちらも致命傷となる深い一撃に、声すら上げさせることなく地に伏せさせた。
伸びきった腕を戻し、転げ呻き声をあげる敵に詰め寄る。
刃先の向きを変え、止めとなる突きを胸部に鋭く放つ。
瞬時に距離をあけて周囲の警戒しながら様子を窺う。
しばらくすると、相手は光の粒子となって音もなく消えた。
まるで空に溶け込むようだ。
そんなことを感じながら、幻想的な光景を見つめていた。
手にしている剣を強く握りながら空を見上げる少年は思う。
これは現実だ。
紛れもない現実だと。
それを肌で感じ、確信した。
やらなければ、こちらがやられる。
生き残るためには、この世界で戦う覚悟が必要になる、と。
心に決意を刻むようにそれを感じ取る。
少年は、自分がいかに平和な世界で何不自由することなく生きていられたのを、この日はじめて強く実感した。