色と青年と幸せ
閉じたままの傘の先から、雨粒がたれる。
雨はまだ降っていて、このうるさい街のすべてをかき消している。髪は濡れ、服は肌に貼りつき、靴の中には水が溜まっている。
僕はもう、人間だった。
悔しくて、苦くて、痛いけど、それでも今は色が見えた。街が灰色から鮮やかな色へと変わった。細かな色が互いを引き立てあって、微妙な色の違いを作っていた。
紅夜は何色だったのだろう。本当は白色ではないのだろう。
紅夜の色と引き換えに見た世界は、あんまりにもきれいで、僕はただ『生きたい』と思うしかなかった。
紅夜に渡すはずだった傘を開いて、あのカフェに向かった。
まだ薄暗い時間だというのに、青年はコーヒーを挽いていた。
「君は生きたいの」
「とても」
僕はカウンターに座り、青年も僕の隣に座った。
「僕はこの世界と自分に、色がないように見えていました。でも、見つける目がなかっただけだった」
沈黙が訪れる。時計の動く音がよく聞こえる。でもそれは、会話だった。
「僕は普通になりたかった。彼女も。僕は普通だけど、それは作ったものだ」
青年が夜の海のように静かに言う。
「僕の色はどんな色」
「歪で、綺麗で、強力な色です。でも僕はそれでいいのだと思います」
僕は席を立ち、ドアを開ける。外はちょうど日の出で、あんなにも強かった雨は止んでいた。
「約束は守ってくれたの」
「はい、きっと。僕も彼女も引き止め合って、結論が出せたんです」
青年は笑った。多分、心の底から。
僕は微笑んで、色がひしめきあっている世界に会いに行った。
はじめまして。お久しぶりです。
今回のお話は前回のお話の反論のようなお話でした。どちらが正しいとかはなくて、どちらも必要なことだと思います。
一つ、タネを仕掛けました。気がついてくれる方がいましたら、いつもありがとうございますと伝えたいです。
評価、感想、レビュー等してくださると、嬉しいです。
寒いのでお体には気をつけて。