間の中の確かな幸せ
ぼんやりとでも感じたのは、『豊』と呼ばれたときからだった。僕は紅夜によって救われている部分がある。透明な僕は紅夜の近くにいることで、自分が紅夜の色に染まっているように錯覚している。僕が色を持っているように勘違いをしている。それは、幸福で覚めたくない夢のようだった。
最近は随分と冷え込むようになった。それに呼応するように街の色もより一層冷たく、薄いものへとなっていった。
紅夜がいる神社を抜けると、自分の身体が心細いもののように感じることがある。まばたきをするために目を閉じて、開けたとき自分が消えてしまっているのではないかと、感覚的に考えてしまう。この世界にいるのに、この世界に干渉することのできない、どうしようもなく救えないもののように感じる。
結局、僕は色を持っていないのだと思う。この世界の薄い灰色に怯えるくらいに、僕は弱い。紅夜は、僕は人間になりきれていないと言った。なら僕は、完全な透明なのではないのだろう。僕は紅夜に憧れた。なら僕は、強い色を持っていないのだろう。
僕はどこに向かっているのだろう。透明の一歩手前でしゃがみ込んでしまっている僕は誰だろう。
それでも。色の間にいても。僕は今、欠けているなりに幸せなんだ。