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第九十四話〜王都攻撃〜

 ……陰陽尹視点


「やっぱり、襲撃がありましたねぇ」


「中途の休憩も儘ならぬ相手へは効果的だろう。尤も、敵方はあまり乗り気では無かったようだが」


 新兵器の都合による私の意見により、敵の都からおよそ二百歩程(約三百六十米)の所で陣を構えることにした。陣は道中の少ない木材で造られた塀で囲まれ、幅広で深い堀を巡らせており、簡易的な縄張りを示している。工事そのものは荒削りなので、内部はそのままの地面である。


「後は転門で都と兵站を繋げたいところだが、どうか」


「……そうですねぇ、もう少し凹凸が少ない所でないと厳しそうです。どうにかしたいところですが、現状の装備では難しいかと」


「まあ、そこまで消耗はしておらんから良いか。おい、現状の兵力はどうだ」


 脇に侍していた兵が、兼実の問いに答えた。参謀格だろう。


「ここまでの七回に及ぶ敵襲で、糧秣は少なくない量が駄目になっています。武具や兵器の類は応戦で少し使いましたが、通常の戦闘よりは少ない消費です。残存兵力は二万七千五百で、残る物資を考えると十五日保てば良い方であります」


「短期決戦一択だな。陰陽尹、其方のあの兵器はどうか」


「要請があれば、すぐにでも。夜間でも撃てるのが強みです」


「ふむ。では、本格的な攻略戦は今夜とする。各員に通達せよ」


 脇の兵士に指示を出し、今夜の決戦へ向けて準備をさせる。此方も、あの兵器をより効果的に使えるようにせねばならない。


「では私は、弾道計算をして参ります。決行の手前にはお知らせ下さい」


「分かった」


 言わなくても連絡は来るだろうが、念の為である。それだけ伝え、兵器の所へ向かった。今回の新兵器は、事前の緻密な計算が結果を左右する。全く気を抜けない。


 …………


 深夜帯。恐らくは現地時間で亥四刻か。


「陰陽尹様、間も無く決行のお時間です」


「用意は出来ています。向こうからの合図はありますか」


「兼実様から松明の光があれば、それが合図です。恐らくはそろそろ…………来ました!」


「では、始めなさい!」


 今回持ち込んだ新兵器は、唐土の霹靂砲を巨大化させたものに近い。もはや人力では作動させられないので、重りを用いて弾を飛ばす。重要なのはこの弾であり、用いられているのは重量百五十斤(約九十瓩)の陶製球である。球の内部は空洞で殻厚は一寸強、中身はぎっしりの火薬である。球からは紐を伸ばしてあり、ここに火を付けてから投げ飛ばすのである。


「火を付ける機会も、着弾地点も考えなければ只の投石でしかありません。重要なのは、敵の面前で大爆発を起こす事なのです。実に難しい計算です」


 兼実にはそう説明している。計算通りに火が付いた球は、予測通りの軌道を通って落ちていく。その先にあるのは、固く閉ざされた敵の城門とその内側である。


 ……皇帝視点


 敵の接近を認めたと言うことで、戦闘服のまま寝床で微睡んでいた。漸減で撃退出来るとは思っていなかったが、予想よりも削れなかったようである。

 そんな苛立ちを手放そうとした時に、どたどたと足音を立てて部下が入ってきた。


「陛下、夜分に御報告申し上げます! 城門が突破されました!」


「なんだと! 何があった!」


「高威力の爆発による、敵の攻撃であります! 壁内の各所でも被害甚大で、戦士達は皆混乱状態にあります!」


「…………此処までか。宮殿の守りを固めよ! 奴等を一人として近づけてはならん!」


 命じてはみたが、理解し難い攻撃を繰り出す相手に、一体我等はどれだけの戦意を残していようか。窓から外を眺めると、都のあちこちから火の手が上がっている。遠方の敵陣からは火の玉が引っ切り無しに投げ込まれ、至る所でそれが弾けている。


「申し上げます! 敵は、すぐそこまで……」


 そこまで聞いたところで、すぐ近くから途轍もない爆音が響いた。衝撃が押し寄せ、壁材や天井の一部が剥がれ落ちた。


「ちゃ、着弾! 敵の弾が、直ぐそこに……!」


 どうやら、残された選択肢はほとんど無いようだ。屈辱の敗北か、然らずんば尊厳の死か。


「……お前は、彼等に勝てると思うか」


「……へ、陛下。まさか……」


「勿論、勝てないことは負けではない。だがこのままでは、勝てないだけでなく負けてしまう。余は、この身体まで奴等に好き勝手させるつもりはない」


「…………」


「……余の身体は、中庭の真ん中に埋めよ」


 戦利品の一部である、彼等の刀剣を手に持つ。我等には一生かけても作れないだろう素材で出来た、この醜態の象徴である。足で踏んで折り曲げる。全くの八つ当たりだ。こんなものに傷を付けても、彼等には何の損害もないのに。

 折れ曲がった剣を投げ捨て、壺に蓄えてあった毒液を掬う。手のくぼみに溜まっただけでも、目的には十分である。


「……タワンティン・スウユよ、どうか安らかに」



 一気に、毒液を呷った。

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