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第九十三話〜高山を進む〜

 ……陰陽尹視点


 光が晴れると、目の前にはあの高山が聳えていた。あの向こうに敵の都があり、押領使等もそこにいるはずだ。


「兼実殿、無事に転移出来ました。他人員の確認が完了次第、進撃しましょう」


「うむ。貴殿も、持ってきた兵器を確認して来ると良い」


 後方に隠してある兵器群を点検する。今回持ってきたのは、投石機や弩の仲間である。従来配備されていたそれよりも遥かに大きく、石や矢の代わりに火薬球と火箭を用いる。本当なら実火槍も持って行きたかったが、まだ試験が完了していなかったので見送った。今後の流れ如何では、もしかしたら取りに戻るかも知れない。


「……どれも問題無さそうです。其方はどうですか」


「一人も欠けずに転移出来ている。よし、総員前進! 狙うは敵将唯一人、向かうは敵の王都のみ!」


 地響きがする程の鬨の声があがり、三万が敵の根拠地へ向けて動き出した。これが肇国以来初の本格的遠征であり、そして恐らく最後の遠征であろう。


 …………


 標高が高くなるにつれ、息苦しさが増してくる。しかし既に体験したことである、対策無しで来るほど馬鹿ではない。完全にとはいかないが、八割程軽減出来る式を組んでおいた。敵の首都まで乗り込んでも、これなら実力のほとんどを発揮できるはずだ。


「兼実殿、首都まではかなり掛かります。道中に村落を見つけたなら、徹底的に活用すべきです」


「それは分かっているが、略奪などと謗られて今後に支障が出ては困る。何か良い方法は無いものか」


 そう話しているうちに、最初の集落が見えてきた。私が、押領使と共にもてなされた村の一つである。近づいてみるが、どうも様子がおかしい。前は幾らか開放的であった村の柵が厳重になり、扉がぴったりと閉じられている。こじ開けようと思えば開けられる粗末なものだが、前回を考えると妙である。


「……前回は出迎えてくれたのですが。まさか……」


「おや、前の旅人さんだね。なしてまた此処へ」


 その柵の隙間から、見覚えのある老婆が話しかけてきた。外に出ようとはしないらしい。


「ああ、村長の奥方殿。いえ、すこしありましてね。柵が増えてますが、何かありましたか」


「上からのお達しさ。曰く王都で狼藉があったんで、暫くは王都行きの旅人をもてなすなとね。だから、あんた方を入れるわけにはいかんのさ。すまないね」


「いえ、それなら仕方ありません」


 やはり予想通りである。村から中央へ早馬が出せるなら、当然中央から村への命令も出来る。私が受けた襲撃事件も、政権に都合良く改変された上で通達がされたのだろう。これでは、道中の食料や寝泊まりにも影響が出かねない。


「食料は足りるだろうが、不眠不休というわけにもいくまい」


「……まあ、こうなることは予想外ではありません。成る可く早いうちに王都へ向かいましょう。あそこまで行ければ勝利は目前です」


「道中に接敵しないことを祈ろう。総員、前進!」


 まだ目的地までは遠い。押領使を早く助けねばと気が逸るが、この三万の兵無くしてそれは成し得ない。気を揉みながら、後ろについていく。


 ……皇帝視点


「皇帝陛下、ご報告申し上げます。例の奴らは、北州から攻め上がって来たとのことです。数は三万、正体不明の兵器も連れています」


「武力行使か。良いだろう、相手をしてやれ。道中に小規模部隊を多数配備し、じわじわと削っていくのだ」


「……しかし、それは卑怯ではないでしょうか」


「奴等の装備を見よ。あんなのに正面切ってぶつかったところで、到底勝てるとは思えん。戦士達の一騎当千ぶりは百も承知だが、こればかりは技術力の差だ。勝とうと思うなら、こうする他ない」


「……分かりました。どうにか彼等を説得して参ります」


 地方に巡らせた幅の広い道路は、敵の侵攻速度を速める危険性もある。当然の事実ではあるのだが、内部に敵なく外部に敵なき状態では一顧だにしない問題であった。


「…………存亡の危機にさえなりかねんな……」


 これは、思った以上に厳しい展開かも知れない。 

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