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第九十二話〜捕縛と挙兵〜

 ……陰陽尹視点


 それは真夜中、全く熟睡していた時に発生した。酒が入っていたこともあって深く眠っていた私を、部下が叩き起こしたのである。


「陰陽尹様、一大事に御座います!」


「……なんですか、騒々しい。まだ日も登ってないじゃ……」


「敵襲で御座います! 王宮の兵が、我等を包囲しております!」


 寝耳に水である。昼間あれだけ友好的であった彼等が、突如我々に刃を向けたのである。


「押領使殿!」


「起きたか。此方も対応しているが、向こうはかなりの大人数だ。此方はいくつかの建物に兵を分散してあったし、何より地の利は相手にある。陰陽尹、お前だけでも本土へ帰還しろ」


「ですが……」


「元より我等は武人。死を覚悟せずしてどうして主上に仕えられようか。我等は気にせず、早く!」


 外からは剣戟の音が聞こえる。既に戦闘は散発的ながらも発生しており、しかもどうやら此方が若干不利であるらしい。此処も、長くは保たないだろう。


「…………必ず、援軍を連れて迎えに来ます」


「うむ」


 一人用の簡易転門を描き、作動させる。尹権限で、他の転門に割り込んで転移出来る緊急用である。


 …………


「……以上、奏上致します」


「そんなことが……」


「陛下におかれましては、早急に援軍を編成して頂きたく」


 治天京の転門に割り込み、陛下に直奏する。本来であれば問題だが、今回は緊急事態である。


「ふむ。では、一条兼実を総大将とする征夷軍を編成。衛士千二百と持ち得る式兵全てを率い、押領使と使節団員を救出せよ」


 今までに類の無い動員である。従来の方針では、式兵などの非生物官吏は漸減傾向にあって、この頃は殆ど見かけなくなっていた。それが、今回の動員では式兵全員である。万単位は軽く超えるだろう。


「それと陰陽尹、卿は確か、片道限りの転門を持っていたな」


「確かにあれなら直ぐに敷けますが、それだけの人数を送るとなると、少し時間がかかります」


「構わん。それと、卿がこっそり作っていた兵器群も許可しよう」


 陛下の言うようにこっそり作っていたが、よもやばれていたとは……


「朕が何も知らぬと思うたか。兎に角、取り得る手段を全て用いて押領使を救え。良いな」



 陛下の大詔(おおみことのり)によって、準備は半辰刻(約一時間)で完了した。転門は山の麓へ設定し、転移直後より進撃を開始する予定である。支援担当として尚真と私も加わり、肇国(ちょうこく)以来の大遠征軍となった。総勢は三万を数え、密かに開発していた新兵器も後方に隠してある。


「卿等の活躍と、作戦の成功を望む。出立せよ!」


 陛下の号令によって、三万の大軍勢は光に包まれた。


 ……皇帝視点


「……結果として奴等の時間稼ぎを許してしまい、対象は逃げたと思われます」


「そう上手くはいかんか。もうよい、下がれ」


 捕縛作戦は、半分成功と言えるかも知れない。しかし最大目標が達成出来ず、得たのは異国の捕虜四百だけである。そう考えると、半分どころか五分の一も成功していないのかも知れない。


「……まあ良い。見れば見るほど、珍しい武具ばかりよの」


「金属の類と思われますが、我々では再現は困難でしょう。戦士達に装備させても良いかも知れません」


「そこは実用性如何で考えろ。家畜か何かで試し斬りでもしてみよ」


 そう命じ、鹵獲品を改めて眺めてみる。

 彼等の持つ武器は、どちらかと言えば美術品のような美しさを感じる。此方の文化圏とは美意識が異なるのは当然だが、異国情緒の漂うと言う点を差っ引いても美しいものである。これが戦の道具だとは、言われなければ気付くまい。

 一方の防具は、実に奇妙なものである。着込む事を前提に作ってあるようで、盾の類は持っていない。動きにくい事この上なく思われるが、実際の彼等は軽い身のこなしであったと言う。

 そんな彼等も、縄で体の自由を奪われ且つ殆ど丸裸で眼前に転がっている。一応生きてはいるが、生殺与奪の権は此方が握っている。大将首が此方を睨んでいるが、所詮は置物同然の負け犬である、虚仮威しにもならない。


「……北の方では、捕虜を生贄とするらしい。余は寛容であるし、何より生贄を必要とする事態も起きていないから、貴様等を生かすこととしよう。誰か、地下牢にでも詰め込んでおけ」


 この捕虜を使い、あの力を手に入れられたら万々歳である。だが、味方を捨てて逃げるような奴が応じてくれるだろうか。まあ、駄目なら駄目で地方の労働力ぐらいにはなるか。

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