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第九十一話〜企て〜

 身体的な特徴は北陸道のあの王とあまり変わらず、ただその服飾の違いだけが文化圏の相違を物語っているだけである。


「日本陰陽尹、安倍朝臣晴明と申します。皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


「うむ、余はこの四つの(Tawantin)(Suyu)を統べる皇帝(Inca)である。改めて、貴殿等の来訪を歓迎しよう」


「有難き幸せと存じます。早速ではありますが、我が主君より土産物を預かって御座います。どうぞ御査収下さいませ」


 そう言って持ってきた土産を並べていく。この頃は版図の拡大で資源も豊富なので、金銀細工や蒔絵・螺鈿細工、湾刀や絢爛な織物などを多数揃えられた。先方の反応は、予想通り上々である。


「……いや、実に美しい品々を頂いた。見劣りするだろうが、此方からもささやかながら土産を用意した」


 皇帝が持って来させたのは、赤く細長い実であった。かなり大きい甕一つをいっぱいにしている。


「強い辛味を持つ実だ。我々はこれを芥子の実(Utsu)と呼んでいる」


「この見た目で芥子(からし)ですか。これは、珍しい物を頂戴致しました」


 甕を後ろに回収し、謝意を示す。


「本日は我が主君より、お手紙も預かって御座います。御一読し、御返事頂きたく存じます」


「ふむ。では今夜中に読んで、明日改めて返事を伝えよう。今夜は離宮に泊まって行くといい」


 皇帝の部下が巻物を持っていく。出来ればこの場で返事が欲しかったが、こんなことで駄々をこねても仕方ない。


「御言葉に甘えさせて頂きます」


「うむ。誰か、使節殿を離宮へ!」


 …………


 日もすっかり落ちた夜。この晩は、皇帝の計らいによって盛大な歓迎の宴が開かれた。来訪者をもてなす習慣は上も下も変わらないらしい。


「……で、この芥子はどうにかならんのか」


 そして目下の課題は、この芥子の対応である。頂き物である以上は粗雑に扱うことは許されない。しかし、香辛料を担いで歩いていくのも中々奇妙である。刺激的な香りを漂わせる使節団と言うのは、実に滑稽だ。


「じゃあ先に転門で本土に送りますか」


「さっさとそうしてくれ」


 小さめの転門を描き、甕を置かせる。あまり外でやることではないし、まして化外では万が一人に見られた場合の対処が難しい。陰陽術は門外不出、一般人に不用意に見せられない。


「あとはここをこうして……よし」


 転門が光って甕を包み込む。運搬係を数人付けてあるので、向こうについた後の問題も無いだろう。光を発した時に見知らぬ誰かがいた気がするが、酒が抜けていないのかもしれない。


「ふう。……さて、寝ますか」


「ああ」


 火種を残して、夜は更けていく。


 ……皇帝視点


「……以上、御報告申し上げます」


「その報告、間違いは無いな」


「凡ゆる神に誓って」


 面白い報告である。あの使節団長は、物を自由に転移させられる力を持っているらしい。あの力さえ手に入れれば、国内の流通は大きく変わる。いや国内だけでなく、国の外へ目を向けることもできる。もしあれが人を運ぶことも出来るなら……


「あの者等とは大人しく通商するつもりだったが、考えを改めよう。彼等を拘束し、その力を確保せよ」


皇帝陛下の(U sapa)仰せのままに(inca)

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