第九十話〜高山の都〜
……陰陽尹視点
広い道を延々と歩いて行くと、どんどんと標高が高くなってきた。途中までは良かったが、未だに登って行く道を見ると実に腹が立つ。
「……なんか息苦しいですね。其方はどうですか」
「確かに、何となくそんな気がするな。息も荒くなってきている気がする」
「空気でも薄いのですかね。那智に登ったときはこれ程ではありませんでしたが」
「富士にでも登っていれば、比較でも何でも出来たろうがなぁ……」
晴明こそ輿に乗っているから良いものの、随身は実に辛そうである。ここまで歩き通しの彼らである、場合によっては本来の力の何割かしか発揮出来まい。
「……仕方ありません。行進速度を落として、環境に慣れさせるしか無いでしょう」
「では、そのようにしよう。……誰か先を見に行かせるか」
「その必要は無いでしょう。これだけの道があるのです、まさか民の為だけに造成した訳ではありますまい」
「……これを駅路と見るか」
「ええ。なので、我々の情報は間違いなく向こうへ入っている筈です。高い確率で人が来るでしょう」
そう発言したちょうどその時、進行方向から現地の衣装を纏った男が二人走ってきた。何れも北陸道の人間と近い容貌で、あまり詳しくない者が見れば間違えるかもしれない。
「北州からの旅人集団は、貴殿等のことで間違いないな」
「やってきた場所はともかく、他に該当する集団が無ければそうでしょうな」
「皇帝陛下の勅命により、送迎の為参上した。身元を御明示願いたい」
「日本より参りました、陰陽尹晴明と申します」
「聞き慣れない国名だな。了承した」
もう一人に得た情報を伝え、其方はまた向こうへ行ってしまった。恐らく皇帝の元へ戻ったのだろう。
「都はこの先にある。随伴の息は大丈夫か」
「……まあ、どうにかなるでしょう。念の為、目的地まではゆっくりめでお願します」
「了承した、空気に慣れる時間も大事だからな」
…………
二千の随身と自分を空気に慣らす為、一日数十里程度に歩いていた。慣れるのには時間がかかるのだ。
幸いなことに道中に村落が多くあり、何処であっても彼等は非常に友好的であった。質素ながらも腹一杯の食事と、しっかりした屋根のある寝床を提供してくれた彼等には、感謝してもしきれない。最初から敵対していた北陸道とは違い、この上なく快適な道中だと断言出来る。
そうして辿り着いた都は、壮麗な都市であった。街中の石組みは特に美しく、隙間なく整然と積み上げられている。街道はどちらかと言えば清潔で、我々の使う道以外では活発な売買が行われている。特定の市場は無く、道沿いに展開しているようだ。
「ニホンの使節、オンミョウノカミ殿御参上!」
大声で名前を──厳密には官職なのだが──呼ばれつつ王宮に入ると、広間で頭を低く保っているように言われた。間も無く皇帝が入ってくるのだろう。
「ニホンの使節殿、よくぞここまで参られた」
王座の方から声がし、ちらりと目だけを向けてみる。
その素朴ながらも派手な服装は、紛れもなくその男が皇帝であることを示していた。




