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第八十九話〜土着民の歓待〜

 ……陰陽尹視点


 建康府から南方に進み、海を渡る。そうすれば広い海岸が見えてくる。


「……いよいよ、最後の化外ですねぇ。どんなものがあるのか、実に心が踊ります」


「お前はそれで良いのだろうが、此方はこれからを思うと腹が痛くなる。何か薬でもないか」


「私、医師(くすし)じゃなくて星見屋なんですけど。それよりもほら、そろそろ上陸ですよ」


 確かに押領使が言外に示す通り、はしゃぎすぎているかもしれない。だが、この地を徳化出来れば全土が陛下の威光に浴するのである。はしゃぎたくもなると言うもの。


「……とは言え、終始これでは間違いを起こしかねません。冷静に行きましょう」


「是非そうしてくれ」


 兵員二個軍団と物資を揚陸し、相手の王がいる場所を目指す。


「さて、王都はどこですかねぇ。ちょっとそこらの現地住民に聞いてきて下さいよ」


「了解した。……そこな百姓、尋ねたいことがある」


 面倒な仕事を押領使に投げると、計画通り代わりに動いてくれた。まさかこんな事のために使節団長が動くわけにもいかないし。

 押領使が話しかけた人物は、見たところ一般の庶民である老翁のようである。初めて見た我等に対し警戒こそしてはいるが、その目には怯えの色は見えない。


「……お前さんら、見かけん顔だね。旅の方なら儂等の村に来なさい」


「……だそうだが、どうする」


「情報の収集も大事な仕事の一つです。ここは、その厚意に甘えるべきでしょう」


「分かった。と言うわけで、案内を頼もう」


 …………


 老翁の導きで連れて来られたのは、そこそこ大きめの集落であった。何家族も入れそうな家が幾つも建ち、視界に入るだけでも数百は下らない人口を擁している。向こうに見える一際目立つ家が、恐らくこの集落の長の住まいであろう。


「族長様、お帰りなさいませ。その方々は、旅の方ですか」


「ああ。もてなしの用意を頼む」


 このぱっとしない老翁こそが、この村の長であったらしい。それらしい飾りや装備も無いが、住民の反応がその証左だろう。


 押領使と共に家に通される──数人の供の他は別の家で歓待を受けている──と、早速料理が持って来られた。北陸道でも見かけた穀物を用いたのであろう団子、魚肉の煮込み料理、そして骨つき肉の汁物。


「……食って良いものだろうか」


「武士が今更仏の教義なんて気にせんでも。……あ、魚美味い」


「そう言うことでは無いのだが……む、肉も美味い」


 何だかんだで食べるじゃないかと言う暇も惜しく、結局全て平らげた。村長の奥方がお代わりを持って来ようとしたが、もう満腹に近いので遠慮した。


「さて、これ程の歓待を有難う御座いました。これから我々は貴方方の王の下へ向かうつもりなのですが、どの道を行けば良いでしょうか」


「なに、(Qusqu)へ向けては大街道が通っている。それをずっと進めば、その内着くだろう」


 奇妙な名の都だが、首都は確かに国家の臍と言える。

 その日はもう遅いと言われ、これまた厚意に甘えてその集落に泊まる事にした。


 ……皇帝視点


皇帝陛下(Sapa Inka)(Chinchay)(Suyu)の村から伝令が参りました」


「向こうからとは、中々珍しい。内容はなんだ」


「海の向こうより、大人数の旅人が渡って来た。謁見を望んでいる……と」


「良かろう。予想される街道沿いの村々にも通達せよ」


 上手くやれば莫大な富が流れ込む、大規模な貿易を展開出来るかも知れない。この機会を逃す手は無いだろう。

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