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第八十八話〜最後の化外〜

 広徳四年、治天紀元十九年正月。

 新たに統合された洲は「北陸道(ほくりくどう)」と区分され、また「大北洲(おおいきたのしま)」も呼ばれることになった。

 津蘭には建康府(けんこうふ)が置かれ、いつも通り帥以下の組織が組まれた。各地に点在していた部族も着実に徳化が進み、大きな反乱も無さそうである。

 唯一の気がかりは信仰の件であったが、生贄の禁止を命じたところ素直に従ってくれた。根拠はよく分からないが、従順であることに変わりはないので不問とする。


 中央を見てみよう。離宮や大神像の為の資材が続々と当該地点に集められ、組み立てられている。恐らくは来年か、遅くとも再来年にはどちらも完成することだろう。

 観地院からの報告によると、東西南北において時差がはっきりと確認された。これによって大地球体説が証明された。観地院は引き続いて、球体大地が成立し得る理由を追い求める。また、西陸道と東洋道の間は北陸道が横たわるのみであったが、その南方に新たなる洲が発見された。西陸道ー北陸道ー東洋道夫々の間には海しかなく、南方の新大陸こそが正真正銘最後の化外である。


 …………


「……では主上、また我等を向かわせるのですか」


「その通りだ。先の北陸道統合に功績があった故、それを頼んでのことである。続く南方でも、平和裡の徳化を進めて欲しい」


 治天宮紫宸殿にて、聖武天皇は押領使と陰陽尹に宣旨を下していた。既に化外の地は北陸道南方を残すのみであり、向かわぬ道理は無かった。


「それは構いませんが。陛下、臣や押領使がまた長く都を空けるのは些か問題では」


「心配は要らぬ。実のところ、生身の官吏だけで十分回っておるのだ。影法師とも言える卿等使役魔は、実はもう卿を含めて五人だけなのだ」


 版図の拡大と官僚制発達によって官吏の数が飛躍的に増大し、朝廷は有機生命体の如き様相を呈していた。そこで超人的処理能力を持つ使役魔は順次数を減らされ、最終的に残ったのは一条兼実、菅原道真、安倍晴明、源義経、尚真の五人だけなのである。きっとそう遠くない将来、彼等もまたこの世界を離れる日が来るかもしれない。


「……嬉しいやら寂しいやら、複雑な感覚ですなぁ。承りました、不詳この晴明、再び使節団長として南方へ向かいます」


「源押領使義経、同じく副使として南方へ向かいます」


「うむ、期待しておるぞ。先の派遣では、兵員が少なかったと聞いておる。今回は少し増やして、二個軍団ほど持って行くと良い」


 前回は三百人だった筈だ。陰陽尹は訝しみ、聖武天皇に尋ねる。


「二個、ですか。二千人も必要でしょうか」


「何、万が一よ。それに、人数は多い方が威厳も保てようて」


「それならば、お言葉に甘えさせて頂きます。押領使、兵の抽出をお願いします」


「承知した。では」


 押領使と陰陽尹が退出し、紫宸殿に静寂が訪れた。


「いよいよ最後……であるか。吉と出るか凶と出るか……」



 広徳四年如月五日。

 二千人を擁する使節団は、建康府から南方へ向かった。

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