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第八十三話〜相討ち〜

 ……葦王視点


「包囲が破られたか……」


「市内に展開していた戦士達も迎え撃ってはいますが、殆ど勢いを削げていません。間も無く王宮へ到達するかと」


「なれば、最早議論の余地は無かろう。私に付き従う戦士諸君、我が指揮の下に敵を討て! 王都に刃を向けたモクテスマは、既に我等の同胞ではない! 装う時間はない、武器を取って迎え撃て!」


「はっ!」


 もう我々に時間は残されていない。此処からでさえも戦の音が聞こえてくる。結局、神に命ぜられた贖罪は果たせなかった。


「使節殿、どうかこのうちに逃げられよ。報告では、王宮裏手の包囲は薄い。貴殿らの兵装であれば難なく突破出来よう」


「……国王陛下、貴方はまさか……」


「なに、所詮臣下一人の機微も読めなかった男よ。国を統べる資格なぞ、元より無かったのやも知れぬ。何れにせよ、モクテスマが蜂起した以上、早かれ遅かれこの国は滅びる。貴殿らを亡国に巻き込むわけにはいかない」


「ですが、それでは!」


「民や貴殿らには実に申し訳ないと思うが、被害の広がらぬうちに抑えねば。ではさらば、次は冥府で会うことになろう」


 引き留めようとする使節達をその場に残し、手の木(mācuahuitl)を持って外へ飛び出す。モクテスマの軍勢は、既にすぐそこまで迫っていた。

 その中央に見える、一際派手な人物こそがモクテスマだろう。相討ちになってでも、これを終わらせねば。


 ……貴族視点


「モクテスマ様、王宮から増援です!」


「見れば分かるわ! 所詮は宮仕えの腰抜けよ、蹴散らし進め! 目標はただ一人、トピルツィン陛下のみ!」


 正面の王宮から続々と戦士が沸いてきた。目算二百。武器こそ持ってはいるが防御はそこそこで、戦士としての正装さえ出来ていない。余程切羽詰まっていたと見える。


「飾りの近衛何するものぞ! 王宮へ乗り込めェ!」


 そのまま減速もせず、此方の先頭と向こうが衝突した。巨石同士が思いっ切りぶつかった様な衝撃さえ感じた。数の上では此方が圧倒的に有利だが、やはり腐っても近衛か、拮抗に持っていっている。


「モクテスマ様! さらに王宮から人影が!」


「今更増えても……いや、あれは!」


 王宮の基壇より躍り出たのは、この中で一番目立つ服装をした人物。紛れも無い陛下その人である。


 ……陰陽尹視点


「陰陽尹、これからどうするつもりだ」


「どうしましょうか。表に出てもやられるだけだし、裏に出ても変わりますまい。さりとて篭っていても、直ぐにじり貧になりましょうて……」


「じゃあどうしろって言うんだ」


 実のところ、何一つ案が浮かばない。名案どころか、粗の多い素案さえも浮かばないのだ。何処からどう見たって、これはどうもしようがないだろう。


「…………仕方ありません、あれでも使いますか。あれは使うと数日ぐらい動けなくなるのでやりたくないんですけどねぇ……」


「なんだ、策はあるじゃないか! 早速やってくれ」


「まあ他に打開策がありませんからね。ええと、月は……出てますね。では準備するので、誰も入れないで下さいね」


 押領使諸共護衛を皆外に出し、周囲を完全に目張りする。したらば部屋の中央を片付け、陣を描ける状態にする。


「思ったより若干狭いですね。まあいいか」


 手持ちの墨で陣を描き、周囲に石を置いて用意完了。


「……青龍朱雀白虎玄武勾陳帝台文王三台玉女、請願叶我願求……」

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