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第八十二話〜造反〜

 ……押領使視点


 王都到着の夜、恐らく子一刻頃。


「使節殿、使節殿はおられますか!」


「……ん。あぁ、警備の。如何なされた」


「緊急事態で御座います。皆様を起こして王宮へお連れするように、との陛下の命であります。詳しくは道中に説明します故、お急ぎ下さい!」


 深夜に突然起こされたと思えば、緊急だと言う。嫌な予感を頭の片隅に追いやって、兵らを叩き起こし、陰陽尹に声を掛ける。


「陰陽尹殿、疾う起きられよ。緊急参内の下命だ」


「…………むぅ。……う、ん? ……あぁ、押領使殿ですか。まだも少し寝かせて……」


「ならん。さっさと冠被って輿に乗れ」


「……仕方ありませんね。何があったんですか」


「道すがら説明がある。ほれ、早う」


 ……陰陽尹視点


 押領使に無理矢理起こされ、寝起きのまま強引に冠被らされて輿に乗せられてと中々雑な扱いを受けたが、聞いたところによればかなりまずい状況らしい。


「陛下、使節殿を皆一人残らずお連れ致しました」


 兵三百と共に王座の御前に向かうと、かなり服装の乱れた斗比留珍が座っていた。どうやら彼もまた、突然に起こされたらしい。昼間に見た気品は霧散し、代わりに怒りと焦りが見て取れる。


「数時間ぶりで御座います。国王陛下におかれてはご機嫌麗しゅう……」


「こんな状況で麗しくいられるものか。誰か最新の情報を」


 私渾身の社交辞令を一蹴され若干悲しみに暮れる私を無視して、家臣が大きな台と簡潔な地図を広げた。この王都と周囲を記しただけのものであるが、使われている紙は中々に質の良いものである。


「残念ながら、依然として戦闘中であります。何とか都市域に入る前に留めていますが、長くは保たないでしょう。モクテスマ側の戦士を幾人も討ち取りましたが、此方も似たり寄ったりの被害を受けています」


 都市の周囲に黒く塗られた丸石が、文字通り都市を囲むように配置された。その内側には白石がやはり円状に配置されており、黒が相手側で白が此方側だろう。


「……にしても、なぜ奴はこんな時に……」


「沿岸部に異民族が侵入したときから、モクテスマ殿は異民族の害意を説いていました。使節殿を王命で受け入れたことが、モクテスマ殿に反乱を決意させた……と考えるのが妥当でしょう」


「まさか……いや、奴なら、そうもなるか……」


「横入りして申し訳ありません。その人物は、外来の人間にどんな思い出があるのか、お教え頂けませんか」


 先の斗比留珍の言葉は、まるでかの人物の生涯を知っているような口ぶりであった。もしそうであるなら、この機会を逃すわけにはいかない。


「良かろう。奴は生前、名君と讃えられた一国の王であった。だがその国は、彼の代に侵略を受けたのだ。彼の言う特徴と貴殿らとは何の共通点もないが、海の外から来たというただ一点が、貴殿らへの嫌悪感情を引き出したのだろう。彼にとっては、正に忌むべき記憶だからな」


「そうですか……」


 此度の反乱は、明らかに我等の訪問が原因で引き起こされていた。知らなかったとはいえ、囲まれてしまった以上は対応せざるを得ない。


「では、我々が出て行けば……」


「奴の敵愾意識の動力は貴殿らだ。無事では済むまい」


「ですよね……」


 まさか我等が正面切って戦うわけにもいかない。斗比留珍側に付いているとなったら彼の今後にも影響するだろうし、抑も此方の兵力が足りない。いくら精鋭の集まりだと言っても、三百程度では強行突破も難しいだろう。

 そんなこんなで重苦しい空気が王座を覆う中、新たな知らせが舞い込んで来た。


「陛下に御報告! 大通戦線に綻びが生じました! 間も無く崩壊、突破の見込み大!」


 ……貴族視点


「陛下をお救いするのだ! 戦士たちよ、進めェ!」


 王都防衛戦線が遂に崩壊した。中央を貫く大通りを、我が方の戦士が一団となって王宮へ殺到して行く。


「陛下に取り入る奸賊を討ち取り、我等の神々への手向けとするのだ! トルテカ万歳!」


 陛下は既に為政能力を失っていると見るべきだ。仮にまだ能力が残っていたとして、奸賊と深く交わった陛下に最早正常な判断は困難だろう。となれば、次にこの国の王となるのは……


「……私は、陛下の目指した世界を作りましょう。トルテカ万歳」


 猛る戦士達と共に、陛下の御坐す王宮へ急行する。奸賊共は……生贄にでもすれば良かろう。

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