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第八十一話〜星の接近〜

 ……陰陽尹視点


 斗比留珍(トピルツィン)なる名を名乗った目の前の人物は、先の都市長殿よりもずっと品格に溢れていた。衣装は何処も美しく飾られており、絢爛豪華なこの王宮内でも押し潰されることは無いだろう。

 都市長と同じように肌は褐色であるが、その豪奢な正装によって体型は確認出来ない。顔つきや目つきも大きく変わるところは無いものの、その溢れ出る気品は大国を纏める長に相応しい。


「使節殿、聞くに貴殿らは遥々海の向こうからやって来たとか。我が離宮を宿として使って良いから、今日はもう休んで、儀礼上の諸々は明日にしては如何か」


「良い提案ですな。国王陛下の御言葉に甘え、そうすることと致しましょう」


「うむ。離宮までの案内と周辺の警備は、私の隷下にある戦士達に任せよう」


 国王は、とても好意的に歓迎してくれた。あの都市長とは大違いである。彼はたった今「戦士達」と呼称したが、具体的な兵制などは組まれていないのだろうか。今まで見かけてきた兵士を見るに、恐らく兵科も分かれてはいないだろう。もし正面からぶつかれば、どちらが勝てるだろうか。


「使節殿、どうか致したか」


「……ああいえ、ちょっとした考え事であります。かなり疲れているので、失礼して離宮へ向かいましょう」


 危ない危ない。飽くまでも今回は交戦を主としない使節である。真正面からの戦なんて、考えたところで仕方ないだろう。そも、こんな話は押領使の方が専門家である。


 …………


 御前から退出して暫く歩くと、直ぐに立派な建物が見えてきた。言わずもがな総石造り。王宮に比べればひと回りほど小さいが、離宮としての整備なら十分だろう。


「ほお、ここが離宮ですか。では此処の大きい部屋は私と押領使が、兵は空いている部屋に入ってもらいましょう。兵の指揮は投げます」


「だろうな。……案内殿、部屋数は幾つであるか」


「其処の大部屋以外に、半分くらいの大きさの部屋が後三十はあったかと思いますが……」


「ふむ、この広さなら十人は寝られるか。隊正は麾下の兵を五分して()を五つ編成、一火に一部屋を割り当てよ。三十火出来るはずだから、一火ずつ順番に寝ずの番を立てるように」


 火は、兵の構成単位の一つである。一火は十人で構成され、五火で一隊を編成する。隊を率いるのが隊正であり、今回は隊正が六人いる。本来ならこの上に旅帥が三人、内二人を束ねる校尉が一人いるのだが、押領使が「煩わしい」と言ったので今回は置いていない。平時なら許されないが、そもこれは使節団扱いなこともあって容認されたのだろう。


「使節殿、警備は我々がやると陛下が仰せられた筈ですが」


「貴殿らを信用しないとは言わんが、我等からすれば異国の地である。何かあっては困るからな」


「ではせめて、互いの顔合わせをしませんか。互いの顔を知らなければ、夜間に同士討ちしかねません」


「……それもそうだな。よし、各員荷物を部屋に置いたら再集合。隊正の指示に従って、彼等と親睦を深めるように」


 三百の兵は指示通りに動き、現地の兵との親睦会に参加した。私や押領使も、警備する人間の顔を知りたいので参加することにした。誰も彼も肌は褐色系、髪も黒い。この分なら、市井の民も皆この様であるに違いない。

 見慣れない穀物と酒を口にしながら、その日は老けていった。


 ……貴族視点


 王都と自身の都市の中間点にて。

 壇に上がった私の目の前に、私の影響力が及ぶ全ての都市から召集した三万の戦士が並んでいる。


「誇り高きトルテカの戦士にして、勇敢なる同志諸君。偉大なるこのトルテカを背負う諸君に、私はとても辛く悲しい報告をしなければならない。

 あの、偉大なる我等の王、セ・アカトル・トピルツィン陛下は、蛮族に心を売られた!」


 戦士達に動揺が走る。自分たちが信じてきた王が斯様なる人間と知れば、当然そうなるだろう。


「この未曾有の国難にあってこの国を導くのは誰か、私はその崇高なる使命に、魂が打ち震えている。諸君らと共に深い悲しみに沈むと共に……私は此処に誓う! 最早亡くなったも同然の陛下の意思を継ぎ、国家を売らんとする売国奴に、正義の鉄槌を下すことを! 心ある者よ共に立て! 今こそトゥランに侵攻し、王宮に巣食う奸賊どもを殲滅するのだ!」


 戦士達一人残らず、私の演説に賛同する旨の声が上がった。


「目標、王都トゥラン!」


 整然たる隊列を組み、夜の闇に沈んだ王都へ戦士が向かう。彼等の掲げる松明は、さながら天の星のようである。


「……陛下、今お助けしますぞ……」

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