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第七十九話〜入市〜

 ……陰陽尹視点


「……人っ子一人おらんではないか」


「まあ、そうもなりますよねぇ……」


 もし相手が我々を民に見せたくないのなら、民から見る手段を奪えばいいのである。目潰しとか目隠しとか方法はあるが、現実的且つ手っ取り早いのは外出禁止令の施行である。万が一に備えて使節が見えないように護衛で取り囲んでおけば、重大事の即時拘束も出来て一石二鳥と言えよう。


「にしても、これは些か応えますね……」


「見世物にさえされぬとはな。余程警戒していると見える」


「外国使節に苦い記憶でもあるんでしょう。直接聞かねばなりますまい」


 とは言え、住居の出入口等の隙間から視線を感じる。輦輿(れんよ)の四方に付いている御簾を下ろしていても、彼等の強い好奇と畏怖が伝わる。外出を禁じられていても、そこはやはり人間なのだ。時々顔を出し過ぎては、護衛兼監視の兵に咎められているのが分かる。


「こんなじゃ、人の反応なんて見れませんね。取り敢えず都市構造かなんかでも記憶しといて下さい」


「言われずとも。……陰陽尹殿、もしや飽きてきたな」


「飽きないわけないでしょ。こちとら沿道の民の反応が楽しみで使節してるようなもんですし」


「お前は何を言っているんだ」


 …………


 欠伸を噛み殺しつつ輿に揺られていると、一段か二段くらい高いところへ登るのが分かった。恐らく宮殿の基壇にでも登ったのだ。

 そう考えたのとあまり変わらない瞬間に隊列が止まり、御簾が上げられた。


「やっと到着ですか」


「此処から歩きで中に入れとのことだ。いよいよこの都市の長に会えるぞ」


 建物自体は総石造、基壇の上に建てられている。壁という壁を埋め尽くすように浮き彫りや壁画が施されており、西陸道や南洋道の文化に従うなら恐らく彼等の神話や神々を延々と綴っているのだろう。本土や両道の何れでも見られないような彩色が目立つが、どんな顔料を使ったらこんな色が出るのだろうか。

 王座までは一本道で、数は大幅に減ったが十人ほどの兵に先導されている。前後に一人、左右に四人。これで十二人を先導兼監視するのだから、警戒なんて次元ではなかろう。

 暫く歩くと、広い部屋に出た。正面に見える人物こそが、此処の長なのだろう。


「待っていたぞ、使節殿。此度の訪問、誠に足労であった」


 そう声をこちらに掛けながら立ち上がった人物は、長と呼ぶに相応しかった。背は高く体格は均整が取れ、無駄な脂肪は殆ど見られない。褐色の肌と短めの黒髪、形の良い黒髭を持ち、髪は結わずに垂らしている。顔自体は面長であるが目は穏やかで、その清潔な身なりは王とも呼べる威厳を示していた。


「お初にお目に掛かります。遥か東方の日本国より参りました、安倍陰陽尹晴明と申します。此度は我々の入市を受け入れて下さり……」


「前口上は結構。要件を伝えよう、貴殿らにおかれては……」


「国王陛下にはお会いせずに帰国せよ、と申されるのでしたら拒否致しましょう」


「……成る程、態々海を越えてくるだけのことはある。まあ直ぐに帰れとは言わん。宿は用意するから、暫くは泊まって行くと良い」


「抗っても無駄でしょうな。呑むしかありますまいて」


「賢明な判断、大いに助かる。使節殿を離宮へお連れせよ」


 謁見の時間は殆ど取られず、そのまま離宮へ通されることになった。


 ……貴族視点


 使節を離宮に隔離した後。


「…………陛下は、正気なのか」


「閣下が恐れ過ぎているだけなのだ、と陛下は仰せで御座います。一刻も早く使節殿を此方へ送れ、とも仰せつかっております」


「……海の外から来た人間は碌な事にならんぞ。奴等は肌こそ白くないし、雷鳴を出す筒も持ち合わせてはいないが、確実に脅威になるぞ」


「私が思いますに、閣下は考え過ぎで御座います。確かに閣下は生前、海外の軍勢に敗れましたとも。然し乍ら、此度の彼等は極めて友好的でありましょう。兎に角、早急に彼等を都へお送り下され。では」


 陛下からの伝令は足早に出て行った。

 思うに、陛下は御乱心召されている。外国人が脅威でない筈は無く、事実私自身がそれが原因で殺されたのだ。


 何らかの策を講じて、陛下と都を守らねばならない。

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