第七十七話〜新世界上陸〜
……葦王視点
「陛下、最近東海岸の北部に侵入してきた蛮族のことですが……」
「奴等か。何か進展はあったか」
「いえ、全くの膠着状態であります。良く言えばこれ以上の侵入は阻止出来ていますが、逆に言えば奴等を追い出すまでには至っておりません。恐らく海上路を利用して補給を受け取っていると思われ、現在の軍備ではこれを断つのは非常に困難と考えます」
「難儀なことだ。まあ取り敢えず、勢力が抑えられているだけでも御の字としよう。兵站の切断は……今後の懸案事項だな」
「分かりました、では前線には現状の維持を厳命しておきます」
「そうしておいてくれ。他に何かあるか」
「申し上げたこと以外は、全く平和であります。目立った問題も無く、小競り合い程度なら現地の首長同士で事足りますし」
「そうか、では下がって良いぞ」
「では、失礼します」
部下が出て行ったのを確認し、椅子に深く座り直して溜息をついた。
『生前の罪を償え』とここに飛ばされたは良いが、はっきり言って何をすれば良いのかさっぱり分からない。取り敢えず先ずは周辺を抑えて服属させ、後は行ける限りの地にいる部族を片っ端から従わせた。とは言っても、こちらの目が遠いところまで届くとは思えないので、実際は殆ど彼等の自治に任せている。税さえ納めれば後は自由にやって良し、が基本方針である。
「陛下、お寛ぎのところ申し訳ありません。例の蛮族に関して緊急のご報告です」
「なんだ、やっと撤退でもしたか」
「いえ、それが……」
……陰陽尹視点
「ここが例の植民市、とやらですか。実に寒いですねぇ」
「で、話にあった『包囲してきている敵』は何処にいるか」
「へぇ、あっちで野営してますぜ。もう卅日もこの状態でさぁ、旦那」
押領使改め征西使節将軍の問い掛けに、水夫はだいぶ訛った大和言葉で答えてきた。
水夫が指差した方向を見てみれば、確かに武装した集団が確認出来た。しかし……
「……奴等、槍や弓矢こそあるが、刀剣の類を持っていないな」
「あの棍棒のようなものが刀の代わりかなんかじゃないですかね、多分。防具は……盾はあるみたいですが、鎧とかは着てなさそうです。突破出来ますかね」
「問題は無いだろうが、奴等が精鋭であれば、当然それなりの被害が出るだろう。最初の予定通り、転門を用意して軍団をいくつか呼び寄せるべきだろう」
「じゃあ用意して来ますね。貴方はそのまま見張りを」
「任された」
陰陽尹はその場を立ち去り、適当な広さの場所を探しに行った。因みに、征西使節の団長は陰陽尹である。聖武天皇の方針で、将軍と軍団こそ連れてはいるが先ずは友好的な外交を展開することになっている。
「……上手くいきますかねぇ……」
時に広徳三年水無月五日。ここに新大陸は日本に知られることとなった。




