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第七十五話〜一の葦の年に生まれし我等の王子〜

 なるほど、確かに私は一つの都市を滅亡へ導いてしまっただろう。それも、自身が(Tlatoani)として治めていた都市を。

 なるほど、確かに私はその都市葦の多い土地(Tollan)を放棄した。私の不注意で死の淵に立たされたその都市から逃れたことは、見捨てたと後ろ指を指されても仕方ないかもしれない。

 だがしかし、私はその罪を自死を以て償ったではないか。海に逃れた際に船上で、この身を自ら焼いたではないか。


 …………


 遡って少し前。私は真っ白な空間に立っていた。周りを見渡してもただ白いだけの大地が、何の起伏もなく見える限りの向こうまで広がっているだけである。私は確実に焼死した筈だが……。現状把握に努めていると、後ろから突然声が掛かった。


「やってしまいましたなぁ」


 驚いて振り返ってみれば、そこに立っているのは奇妙な男であった。いや、抑も人であるのだろうか。黄色い肌を持ち、目は上に飛び出ている。手に持っている恐らく木製の棒は、何に使うのか見当も付かない。私の宮殿にあった壁画をつぶさに観察してみれば、きっとこんな奴が何処かに書かれているだろう。


「そこな生物よ、何者であるか」


「体は別から借りたが、中身は羽毛ある(Quetzal)(coatl)やぞ。口調は身体依存やね」


「…………」


 我等の美的感覚に近いようなこの何かは、よりにもよって自らを農耕神と名乗ってきた。私も生前に名乗ったことはあるが、こんなふざけた姿形の者が名乗っていい名前ではない。


「嘘は重罪と知っての名乗りか」


「嘗ての信者が信じないとかぐう畜。兎に角ワイは羽蛇や。今から言うことをよぅく聞くように」


 見た目はちんちくりんだが、どうも人ならぬ身の出せる圧を出している。残念ながら、これに農耕神が入っているようだ。逆らう選択肢は無い。


「都市の統治を放棄して滅ぼしかけ、挙句逃げ去る……いくらあの煙を吐く(Tezcatli)(poca)に騙されたからとは言え、重罪不可避ですねクォレは……」


「待って欲しい、確かに私は一つの都市を滅亡へ導いてしまっただろう。それも、自身が王として治めていた都市を。確かに私はその都市を放棄した。私の不注意で死の淵に立たされたその都市から逃れたことは、見捨てたと後ろ指を指されても仕方ないかもしれない。だがしかし、私はその罪を自死を以て償ったではないか。海に逃れた際に船上で、この身を自ら焼いたではないか」


「悲しいけど、死は何も償わんのやで。ほな……」


 私の反論をあっさりと跳ね除けると、農耕神は手に持っている木の棒で地面を叩いた。すると地面は一瞬で消失し、世界の理に従って私は下へと落ちて行った。

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