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第七十一話〜審判〜

 ……神王視点


「……神官共とはまた違うようだな。して、名をなんと言う」


「貴方様が名を明かされぬように、私も名を明かすつもりは今のところ御座いませんな」


 なるほど、確かに神官共とは違うらしい。どこからどう見てもこの世の理と相反するような術を用いる点ではそっくりだが、系統は異なるように思われる。


「今のところ、か。では、我等を捕らえてなんとする」


「決まっておりましょう。私に捕まった段階で貴方方は捕虜も同然、私の仕える主上にお裁き頂くのです」


「……断固として抗議したいところだが、この呪縛があってはそれも厳しいか」


「御察しが早くて助かります。其処の宰相殿は泡吹いて倒れてますが」


「その程度の人間だったと言うことだろう。有能ではあったが、やはり生身の人間では脆いものだな」


 この辺りを手に入れた時に、現地の者から雇った人間であった。今もいる中では古株の一人であったが、結局は小心者だった訳だ。

 やがて、此奴の仲間と思しき者共が部屋に入って来た。殆ど傷がないのを見るに、守備隊は応戦する間も無く瓦解していったに違いない。職業軍人ではない徴募兵とは言え、それなりの訓練は課していた筈だが。


「……なるほど、これでは負けて当然だな。我が事ながら悲しくなるわ」


「士気の低い農民兵なんて、古今東西こんなものですよ。今回は運が無かったとでも思えば良いでしょう。まあ、次回は永久にありませんが」


「はは、全くだな。だが、我が娘は何が何でも返してもらうぞ」


「その事に関しても主上の御前で話しますから、今は一緒に来て下さい」


 斯くして、我等の首都太陽神の地平線(Akhetamen)は陥落した。王たる私は無様にも腰に縄を巻かれ、妻子共々敵の親玉に引き渡されるのである。

 百歩譲って、私が敗北したことは認めよう。殆ど反則のような形での負けだが、これしきの兵を抑えるだけの守備隊を用意出来なかった私にも原因があろう。だが、何もかもを失っても、奴等に拐われた娘は返してもらう。例えこの二重冠を失おうとも。


 ……聖武天皇視点


 新しい大極殿は、従来の物よりも若干広く感じる。実際に広いので、その感覚は正しいが、理由は他にもある。

 高御座とその壇を挟んで目の前にいるのは、数人の衛士と陰陽尹に押領使、東宮とその侍女──あの東宮の想い人である──そしてその侍女の父親たる敵の王である。


「……以上、この押領使より奏する次第で御座います」


「うむ、確と聞き届けた。其処にいる者が、件の王なのだな。朕に名乗れ」


「…………即位名、美しき(Nefer)太陽神の顕現(kheperure)。呼び方は何とでも呼ぶがいい」


「爾は娘に家出され、その原因を朕の子に押し付けた。そして戦を仕掛け、敗北した。朕に刃を向けるのみならずその血族に泥を塗る行為、如何な重罪であるかは理解出来よう」


「我が娘は貴様らが拐ったのだろう! 私はあらん限りの愛情を娘に注いだし、望む物は何でも与えた! どうして家出の必要がある!」


 容疑の一部否認。実に面倒なことである。

 と言うのも、令に従う以上は、疑問点があると審理は一からやり直しになる。勿論長い時間が掛かるし、疑義がそうであるとなれば別の判断を下さねばならぬ。この国を治める者として令は破れないから、一度差し戻さねば……


 この後の流れを考え始めたその時、凛として実に良く通る高い声が殿内に響いた。



「お父様、それは違います!」

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