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第六十九話〜作戦再考〜

「……こうして命からがら嘉寧まで逃れてきたって訳だ。陰陽尹、聞いてるか」


『聞く訳ないでしょ。ただでさえ忙しいのに貴方の武勇伝聞く余裕なぞ塵芥程もありゃしませんて』


 嘉寧までの撤退に成功した押領使は、東宮と今後の打ち合わせをした後に陰陽尹へ連絡を取っていた。


『……で、まさかあんなクソ長い報告書を聞かせるためだけにこれ使ってる訳じゃないでしょう。何の用ですか』


「おお、そうだそうだ。ちょいと部下の陰陽師を数人借りたい。新規の転移陣構築に必要でな」


『私の可愛い部下達を何に使うってんですか』


「いやなんだ、敵の都に大河が通っていてな。そこを使って少数で侵入、空き家かどっかに陣張って内側から食うって寸法よ」


 敵の都は川沿いにあり、その川は実に大きい川である。許昌府に残っていた資料にそうあったので、押領使は東宮との合議でこの奇襲を決定した。もし成功すれば、一気に戦を終わらせることが出来る。それどころか、本土からの転移陣を利用した増援さえも期待出来る。


『貴方大興府でも似た事やってましたよね』


「よく覚えてないな。まあそんな訳で、何人か必要なんだ。どうか」


『嘉寧にも居たはずですが……確かに彼等では不足かもしれませんね。とは言え此方も人手が必要なので、最低限の三人が限界です。ちゃんと守ってくださいよ』


「おうとも。傷一つ付けさせんさ」


『なら良いんですが。も少ししたらそっちに送りますんでね』


「助かる。何かあったらまた連絡する」


『無い方が有難いんですがね。では』


 陰陽尹はそう言って半ば一方的に連絡を切った。まだ話し足りなかったとでも言うような顔をしながら、押領使は遠話機をしまった。


「押領使様、陰陽師が到着されました」


「存外早いな。すぐそっちへ向かう」


 作戦概要の説明のため、押領使は嘉寧陣のある家屋へ足を向けた。


 …………


「……以上が、本作戦の概要である。何か質問はあるか」


「「「無謀だと思います」」」


 陰陽師三人衆、きて早々の三重奏である。


「はっはっはっ、細かいことは気にするな。護衛もちゃんと付けるから、もちっと気楽にな」


「はぁ……」


「まあそんなことはいい。おい、そっちの星読み。日没までどれくらいか」


「私も一応陰陽師なんですけど。……後三刻ちょい(約一時間半強)ってところです」


「では、開始時刻をその辺に設定。各員準備にかかれ!」


 三刻という時間は長く見えるが、その実、かなり短いものである。周りの構成員は知っていたから良いものの、困惑の表情でおろおろするのは他でもない、来たばかりの陰陽師三人衆である。


「わ、我々はどうすれば……」


「準備だ準備! 出来たら外の港へ集合! ほら急げ!」


 敵本土への奇襲作戦の用意は着々と進み、嘉寧はその影を広く濃くして行く。


 ……神王視点


「宰相、被害報告」


「戦車三千の内、二千五百以上が馬の暴走により喪失。残る五百も車輪の破損などでとても戦力として期待出来ません。追撃は不可能です、陛下」


「……どうしてもか」


「どうしてもです、陛下。それに、もうじき日が落ちてしまいます。夜の砂漠の恐ろしさ、よもや砂漠の王たる陛下がご存知でない筈は御座いますまい」


「…………仕方ない。撤退する」


 全く、なんなのだあの兵器は。強烈な音と光で馬が皆やられた。かく言う私も、まだ耳が遠い。戦力の殆どを喪っては、宰相の言う通り大人しく退く他ない。


「賢明なご判断で御座います、陛下。総員撤退!負傷者には手を貸せ!」


 夜の砂漠は冷える。昼間の灼熱が嘘かのように、そこに立ち現れるのは死の世界である。動くものは殆どなく、あるとして風に運ばれる風かサソリぐらいのものである。そのサソリも猛毒を持つのだから、夜の砂漠に利点は無い。


「……嗚呼、夜が憎い。月が憎い。砂漠が憎い。寒さが憎い。サソリが憎い。奴等が憎い」


「さあ、陛下。陛下も早く御撤退を」


 敵の都市を目前にして、実に虚しい退却となった。必ずや復讐してくれよう。

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